Saturday

 真っ赤になった宇咲を家まで送った後で、ハンドルを握るネオンがくすくすと笑いながら俺に言った。
「偉音、あの子のこと気に入ってるでしょ。前までは比べ物にならないくらいゲストの扱い雑だったもんね」
「別に」
「終わった後も適当に抱いて縁切りしてたじゃん。何で宇咲くんのことは抱かなかったの? 絶対言えばついてきてたのに」
「……黙れよお前」
 へいへい、と軽い返事をしてネオンがアクセルを踏み込む。

 初めてのことだった。ステージ上で心が乱れかけたのは。頑張った、だとか、安心しろ、だなんて言葉をかけたのは。
 スポットに照らされた宇咲の蕩けた顔。それを思い出せば今でも体が熱くなる。ネオンが一番懸念していた二人同時での射精も、若干俺の方が早かったくらいだ。
 イきにくい体質なのは今に始まったことじゃない。波長の合う奴が相手じゃないと何時間咥えられても射精には至らない。
 今までセックスでもフェラでも俺を十分以内にイかせることが出来たのは隣にいるネオンと、
『偉音。俺の服持って帰るの忘れた! 数少ないスーツなんだよ、どうしよー!』
 ──こいつだけだ。

「……Uターンだ、宇咲の家戻るぞ」
「え? やっぱヤりたくなった?」
「忘れモンだとよ」
「あはは、ウサちゃんらしいなぁ」
 ネオンがハンドル切ったその時、再びスマホが鳴った。
「………」
 飯島清次郎。差出人の名前を見るだけで舌打ちが出る。
「どうしたの? 今度はオーナー?」
「ああ。……今日のステージで気に入ったから宇咲を次の接待で持って来いってよ」
「どうすんの?」
「考え中」

 飯島はクラブのオーナーという立ち位置から、俺とネオンがまだ駆け出しの新人だった頃から面倒を見てくれていた──というのは表向きの話で、実際は死ぬほどこき使われていた。
 待遇は確かに良かった。デカい仕事を優先的に与えられ、この業界で少しは知られるようにもなった。
 見返りは俺達が調達してくる「ゲスト」、それが無い時は俺達自身。回を重ねるうち無心でそれに応えられるようになったが、初めの頃は終わった後に何度も吐いていたのを思い出す。

 俺が射精しにくい体質になったのも、ネオンの顔に常に偽りの笑みが浮かぶようになったのも、全てはそのせいだ。

 俺はまだ感情の起伏が少ない方だからダメージも少なく済んだが、パフォーマンスの世界に純粋な憧れと夢を持っていたネオンのショックは相当なものだったろう。大丈夫だと笑いながら泣いていたネオンを見るのは辛かった。
 あの日──三年前の冬。風呂場で剃刀の刃を手首にあてていたネオンをそこから引きずり出し、抱いた。ネオンとセックスをしたのは最初で最後、その一度だけだ。

 今では俺達に対する無茶な要求もしてこなくなった飯島だが、それは単に俺達に飽きたからだろう。
 ゲストを寄越せと言われれば、これまでは売り専で買った男達に多めの金を渡して派遣させていた。俺達も奴らも、ついでに言えば売り専の彼らも、それで互いに満足していた。完璧なサークルだった。

 まさか宇咲に目を付けられるとは。

「クソ。ステージでやりすぎたか」
「ウサちゃんのアレ買ったのってオーナーの取り巻きでしょ? あいつら本当に変態野郎だもんね。……偉音、どうするの?」
 これまで飯島に逆らったことはない。気に入らない奴だが資産と人脈だけは確かだし、大人しく従っていれば面倒事は起こらない。ムカつくからと逆らったところで俺達が得られるメリットなど何一つないのだ。
「奴と話してみる」
「……そっか。うん」
「辛気臭せえ顔すんな。らしくねえ」
「だよね! 何とかなるかぁ」