亜利馬&潤歩、inワンダーランド -4-

「気になる点を言っても?」
 山野さんが口元に手をあて、企画書を捲る。
「ええ、どうぞ」
「アナルホールの方ですが、亜利馬モデルならば『トロトロじゅぽじゅぽ』の表現を別に変えて頂きたい。亜利馬はデビュー作が初体験だったから、まだセックスに慣れていない設定で売っているんです。実際その通りですし」
 山野さんの口から「じゅぽじゅぽ」なんて台詞が出ると思っていなかっただけに、俺の顔は更に赤くなってしまう。真剣な場だから照れても意味なんてないのは分かっているけれど、どうにも撮影現場以外でのエロい話は苦手だ。

 有栖が同じページを開いて脚を組む。
「そっか。亜利馬はまだウブだもんね。それじゃあ『キツキツ・ギチギチ』はどうですか?」
「チンポが食いちぎられそうなオナホだな。今はそれほどギチギチじゃねえし」
「………」
 潤歩のツッコミに、俺の顔から湯気が出る。
「ふーむ、なるほど。映像からは伝わらない部分もあるんですねぇ……」
 すると白太さんがその場で少し身を屈め、有栖の耳元に唇を近付け、言った。
「有栖。僕が詳しい話を山野さんとしますから、有栖はモデルさん本人から直接お話を聞いてみてはどうです? 亜利馬くんも有栖が相手なら赤裸々にお話できるでしょう」
「そうだね。山野さん、二人をお借りしてもいいですか?」
「ええ、分かりました」
「亜利馬、潤歩さん。こっちへどうぞ」
 ソファを立った有栖がフロアの奥へと歩いて行くのを見て、山野さんが俺達に頷いた。

「……有栖、ちょっとだけ背伸びたね。昔は俺より小さかったのに」
「へへ、亜利馬より牛乳飲んでたからさ」
「俺に言わせりゃどっちも変わんねえよ。チビちゃんズって感じ」
 奥へ向かって歩きながら、潤歩が俺と有栖の頭にポンと手を置いた。俺と似ているからか有栖のことも同じ扱いをしているようだ。
 有栖が潤歩を見上げ、ニコリと笑って言う。
「公式サイトのプロフィールによると潤歩さんの身長は176センチ。同い年の獅琉様の身長は177センチ。潤歩さんの方が1センチ分チビなのです」
「て、てめぇ……人が気にしてることを」
「あ、有栖やめて。潤歩さんもすいません、怒らないでください」
「流石はお前の従兄だな。生意気なところもそっくりだぜ」
「全然そっくりじゃないんです、本当は……」

 奥の自動ドアが開き、視界いっぱいに有栖の研究室が広がった。フロアと違ってちゃんとしている。普通の科学室って感じで、壁も天井も蛍光灯も真っ白だ。……ただし、デスクの上は汚いけれど。
「椅子は俺のデスクしかないから、そこに座ってくれる?」
 有栖が指したのは、仮眠用の簡易ベッドだった。背もたれの部分が少し上がっていてビーチチェアのような形をしている。二台あるのは普段は有栖と白太さんがそれぞれ使っているからだろう。
 俺と潤歩は一台ずつ借りてそこへ浅く腰掛け、自分の椅子の上であぐらをかいた有栖がペンを揺らすのを見ていた。

「ふーむ。さっき山野さんに言われた通り、亜利馬の中身はちょっと改良しないといけないね。このままだと亜利馬がビッチになっちゃうもんね。それは俺も心外だ」
「亜利馬。お前がこないだ使ったヤツの感想言ってやれよ。どっちかと言えばお前の中もアレに近いだろ」
「て、天使の……?」
「ダメダメ」
 有栖が俺の言葉を遮り、持っていたペンを魔法のステッキのように振って言った。
「他者のオモチャと同じ物を作っても意味がないからね。それにこの機会をフル活用するなら、亜利馬の中と完全一致する物を作らないとファンの期待を裏切ってしまうじゃないか」
 意外に情熱を持ってるんだなと少し感心してしまったが、有栖が放った「完全一致」という言葉に思わず身構えてしまう。