亜利馬&潤歩、inワンダーランド -2-

「それにしても、面白いなぁ」
 壁に描かれた風景を見ていると、本物の森の中に迷い込んだような気分になってくる。しかも切り株やキノコの絵が大きいから、何だか自分の体が縮んだみたいだ。
 南側の大きな窓からはさんさんと陽射しが降り注いでいるし、穏やかな午後の森でお茶会している図が頭に浮かんで少し笑ってしまった。

「大変お待たせしました」
 突然背後で自動ドアが開く音がして、同時にハンサムなスーツの男の人が入ってきた。背が高く、めちゃくちゃスタイルが良い。ふわふわの髪は輝くような銀色で、綺麗な肌は大雅と同じくらいかそれ以上に白かった。
「インヘルでブレイズの担当をしている山野です。今日はどうもお招き頂き──」
 すぐさま立ち上がった山野さんが男の人に名刺を渡す。それを受け取った彼がにこりと笑って、山野さんに頭を下げた。

「バッドアリス商品企画開発部のシロタです。今日はわざわざ来て頂いてすみません。こちらから出向くのが本当ですが、企画の説明にこちらのフロアが必要なもので……」
 男性が山野さんに名刺を渡し、それから俺と潤歩にも同じものをくれた。
 東条白太とうじょうしろた──。てっきり苗字かと思ったけれど、シロタというのは下の名前だったようだ。

「こちらがブレイズの潤歩、隣が亜利馬です」
「あ、亜利馬です! 初めまして、よろしくお願いします!」
「……どうも」
 ぶっきらぼうに挨拶をした潤歩は脚を組んだままだ。それでも白太さんはニコニコ笑いながら満足げにそんな潤歩を見ている。
「潤歩くん、亜利馬くん。今日はどうも来てくれてありがとう。歓迎します。ようこそバッドアリスのワンダーランドへ」
「……はあ」
 遊び心もここまで徹底していると尊敬する。壁に描かれたデカいキノコや森の風景も相まって、まるで本物のアミューズメントパークに遊びに来たみたいだ。

「それでは我が開発部のリーダーをご紹介します」
 白太さんが言うと、フロア奥の自動ドアが開いて中から一人の青年が出てきた。
「え、……」
 白いブラウス。水色のミニカボチャパンツ。黒のネクタイとハイソックス、そしてその上にロング丈の白衣──。
 リーダーどころかおよそ社会人には見えない衣装のイカレっぷりが際立つ彼は、……彼は。

「やあ、初めまして。バッドアリス商品企画開発部リーダー、有栖ありすです」
「あ、ありす……」
 柔らかそうな茶色の髪。大きな青い瞳。背丈は俺より少しだけ高く、だけど小柄な体つきは俺とさほど変わらない。
「アリス?」
 潤歩が彼の名前に対して露骨に呆れた顔をした。無理もない。

 俺だって、子供の頃は散々馬鹿にした──。

「インヘルの美形敏腕マネージャー、山野さん。ブレイズの男前な暴れん坊、潤歩さん。……それから」
「有栖」が俺を真っ直ぐに見て言った。俺がそれを言う前に。
「俺の大事な可愛い従兄弟、亜利馬」
「……有栖」
 ………。
 右には目を見開いた山野さん、左には口をぽかんと開けた潤歩。……二秒、三秒、時が止まる。
 そして。
「いっ、い、従兄弟オォォ──ッ?」
 潤歩の叫び声が開発室中にこだました。