亜利馬、それから4人の先輩たち -4-

 その夜──。
「ほらよ。さっさと持って帰れ」
「あ、あれ? 潤歩さん、『俺が使い方教えてやる!』とか言ってたのに……いいんですか?」
「今日は地元のツレと飲みに行くことになったんだよ。獅琉もな。一人で試すのが不安なら、明日面倒見てやるから大人しく待ってろ」
「いや大丈夫です。気を付けて行って来てください」
 305号室の潤歩の部屋で例の荷物を受け取った俺は、階段を使って五階へ戻る途中で溜息をついた。
 ……別に潤歩にいて欲しかった訳じゃないけど、やっぱり一人だと試すのが怖い。今日のところは止めておこうか。

「……大雅、いるかな?」
 四階に着いて踊り場のすぐ近くにある401号室をちらっと覗き、やっぱり駄目だと首を振る。大雅なら普通に頼まれてくれそうだし、俺が初めて「尻の洗浄」をする時にも大変お世話になったけれど……この時間はきっと寝ているはずだ。
 諦めて階段を上ろうとした、その時。
「お? 亜利馬、どうした?」
「あ、あれっ? 竜介さん!」
 背後で401号室のドアが開き、振り向いたその先では、丁度部屋を出てきたらしい竜介が驚いた顔で俺を見ていた。

「竜介さん、大雅の部屋に遊びに来てたんですか?」
「ああ、ケーキを買ったから食いにこいと誘われてな」
 竜介はブレイズメンバーの中で唯一、六本木の一等地で二匹の猫と暮らしている。この寮に来るのは大雅に呼ばれた時だけだ。
「シロとクロは元気ですか?」
「相変わらずのんびりしてるが、元気さ。今度また会いに来てやってくれ」
「行きます行きます!」
 竜介の家の白猫と黒猫──シロとクロは、元々は野良猫だけど凄く利口で人懐こく、俺達が遊びに行くと鈴の音を鳴らしながら膝に擦り寄ってきてくれる本当に可愛い奴らだ。留守番もしっかりできるし(寝ているだけらしいけど)、お腹も撫でさせてくれる。
 俺はあのふわふわの手触りを思い出し、うっとりと目を閉じた。

「ところで亜利馬、それは何だ? 何か買ったのか?」
「あ、えっと……これはその、撮影の練習になるようにって、潤歩さんに選んでもらったアダルトグッズです」
「へえ」
「一人で試すの不安だったんですけど、……大雅、きっともう眠いですよね?」
 すると竜介が真っ白な歯をニッと輝かせて笑い、俺の頭に手を置いた。
「いま丁度コンビニに行くよう頼まれたところだったんだ。買い物が済んだら帰る予定だったし、何ならこれから大雅も誘って俺の家泊まりに来るか?」
「えっ、で、でも……」
「……行く」
「うわぁっ! た、大雅っ……!」
 薄く開いたドアの隙間から大雅の目が覗いていて、俺は危うく荷物を落っことしそうになってしまった。

「大雅、聞いてたのか?」
「聞こえてた」
「じゃあ話が早い。亜利馬の練習を手伝ってやろう」
 こくりと頷いた大雅が、その足でスニーカーを履き廊下へ出てくる。
「で、でももう遅いですし、わざわざ竜介さんちに行くのは迷惑になるんじゃ……」
「こういう時のための仲間だろう、遠慮するな!」
 ブレイズの兄貴。お父さん。頼れる皆の味方──竜介。俺はこの人が怒ったり不機嫌になっている姿を一度として見たことがない。

 そうして俺は竜介の言葉に甘え、大雅と二人で竜介の車の後部席に乗り込んだのだった。