亜利馬、職業AVモデル -4-

「楽しみだよね! ちゃんと演技できるか心配だけどわくわくする!」
「獅琉さんは演技上手いじゃないですか、大丈夫ですよ!」
「これを機に俺も俳優デビューできるかもしれねえな……」
「確かに、潤歩さんは極道映画のチンピラ役とか似合いそうじゃないですかっ?」
「何だとてめぇ、ぶっ飛ばすぞ!」
「ほ、褒めたのに……」
 大雅は「俺、全部棒読みだけど……」と少し不安げに呟いている。
「でも、亜利馬の役がどんなのになるのかは楽しみ」
「俺も大雅と竜介さんがドラマでも絡むのか、今から楽しみだよ」

 大雅が竜介に惚れているのは公然の秘密だ。気付いていないのは竜介だけで、しかも少し天然が入っているために彼はいつも悪気無く大雅の顔を真っ赤にさせる。
 例えばこんな風に。
「ああ、俺も楽しみだ。大雅とはVでも息が合ってるから、もし共演になってもいい演技が発揮できそうだな!」
 そう言って早速大雅の顔を沸騰させた竜介が、更にその頭をぐりぐりと撫で回してトドメを刺した。

 そして──
「五人揃ってるか」
 ノックを省いて会議室に入ってきた、スーツ姿のクールなハンサム。眼鏡の奥で知的に光る鋭い目が特徴的な彼は、俺達ブレイズのマネージャー、山野一郎さんだ。
「山野さん、お疲れ様です」
「ん。五人ちゃんといるな。遅くなってしまったから手短に説明するぞ。既に全員二階堂さんから現場で話を聞いていると思うが、次の企画でお前達のドラマメインの作品を撮ることとなった」
 やっぱり本当なんだ。今から胸がドキドキして、手に汗をかいてしまう。

「と言っても土台はAVだから、当然ヌードも絡みもある。いつものドラマ仕立ての撮影が、もう少し気合の入ったものになるとイメージしてくれ」
「どんな内容になるんだ?」
 潤歩が質問すると、山野さんが眼鏡のブリッジを持ち上げてから手元の分厚い手帳を捲って言った。
「現段階で決まっているのは、多少エンタメ色の強い男子校の学園ものだな。お前達も慣れているからやりやすいだろう」
「学園もの……今日撮ったばっかりだ」
 それでもやりやすいというのは本当のことだった。セットも色々借りられるし、俺や大雅はまだ十代だし、年上組も竜介含めぎりぎり学生に見えなくもない。

「配役は決まってるんですか?」
 獅琉が言って、山野さんがそれに頷く。
「獅琉は生徒会長、潤歩は不良生徒、竜介は御曹司の息子、大雅はコンピューターに詳しいハッカー」
「……俺は?」
 山野さんが俺に関する発表を最後にする時は、大抵オチか言いにくいかのどちらかだ。案の定、手帳を捲る山野さんはどこかばつが悪そうな顔をしていて俺と目を合わせようとしない。
「亜利馬は、転校生だ」
「転校生? あ、何か意外とまともな……」
「ただし、女子生徒の制服を着ている」
「……えっ、……」
 目を瞬かせる俺の斜め前で、潤歩が「また女装かよ!」と大笑いしている。

「な、何でですか? だって男子校なんですよね? 何で俺だけ……!」
「………」
「もしかして、それって、あの……バラエティドラマですか……?」
 恐る恐る問うと、山野さんが「いや」と真顔で言った。
「真面目なドラマだ。若いお前達にはピンとこないかもしれないが、昔はピンク系といえば学園もの、そして紅一点ものが王道だったんだ」
「で、でも俺の父ちゃんだってそんなエロビデオ持ってなかったですよ! 父ちゃんが持ってたのは、確か……女の人が無人島で全裸で追いかけられるやつと、女の人が監獄でエッチなことされて、最後にはみんなで看守をやっつけるやつです!」
「亜利馬のお父さんって、ちょっと可愛いね……中学生みたい」
 興奮して叫ぶ俺の背中を、獅琉が苦笑しながら撫でてくれた。

 山野さんが少し厳しい目になって、俺に言う。
「じゃあ、亜利馬。お前は無人島で全裸で追いかけられたいのか? もしそうなったらお前は総受けでエキストラ男優を五十人は追加するぞ」
「嫌だぁっ!」
「だったら文句は言うな。今言った配役、これで企画は進める」
 基本的に俺達は従うしかない。本当に絶対的に無理な企画──例えば精神的にキツい物や体調を崩すような物でなければ、俺達を売り出してくれる会社の意向に添うべきなのだ。

「俺はどの話も楽しみだぞ。こんな企画が来ると思ってなかったし、有難い話だ!」
「うん、俺も楽しみ!」
 基本どんな企画でも竜介と獅琉は楽しむことができる。二人とも好奇心旺盛で新しいことにチャレンジするのが大好きだから、内容がどんな物であれいつだってやる気満々なのだ。
「詳しい話は後日知らせる。……それでは駆け足の説明になってしまったが、今日はこれで以上だ」
 山野さんが会議室を出て行き、俺達は揃って顔を見合わせた。