亜利馬、恋愛について少し考える -6-

「でも、亜利馬がそういうの気にするのは無理ないよね。なんたって今どきの十八歳だもん。撮影で色んなことしてはいるけど、中身はまだまだ年頃の男の子だもんね」
 子供扱いされるのは好きじゃないけれど、確かにこの二人と比べたら俺は完全なる子供だ。恋愛経験もなくて仕事以外でのセックスも知らないし、誰かを好きになる、惚れる、っていう気持ちも分からない。
 俺は箸を咥えて目を閉じ、「うーん」と唸った。

「俺の初恋はね、小学校の先生だったよ」
「えっ!」
 突然獅琉が暴露して、思わず目を見開く。獅琉と潤歩が顔を見合わせて当時のことを思い出しているらしいが、ニコニコ顔の獅琉とは反対に潤歩は呆れた顔をしている。
「担任の先生で、サッカーが得意な男前だったんだ。結婚してたけどね。小6の俺は子供の権力フル活用して先生に抱きついたりサッカー教えてもらったり、猛アタックしてたよ」
「バッカみてえ、って思ってたけどな、俺は! あんな筋肉馬鹿によく惚れたモンだぜ」
「あー、キス止まりだったけどあの時ヤッとけば良かった。絶対凄いセックスしそうだよね、あの人」
「今はお前のDVDで抜いてたりしてな」
 はああ、と俺は溜息をついて獅琉を見た。……ダメだ。獅琉はお嫁さんにしたいくらい魅力的だけど、この人の恋愛履歴を参考にしてはいけない。

「じゃあ、潤歩さんは? 初恋ってどんな感じでした?」
「はあっ? そんなモンしてるかっつうの! なんたって俺はハーレム作ってキングの位置にいたからよ!」
「……確かに潤歩の周りには可愛い男の子いっぱいいたけど……セックスのやり方を教えてあげたのは誰か、忘れてないよね?」
「うっ、……!」
 潤歩の顔から血の気が引いてゆく。箸で掴んでいた餃子が皿に落ち、しばし秒針が響くほどの沈黙となった。

「あ、あの……」
 耐えきれない空気から潤歩を救うつもりで、冗談混じりに獅琉に問いかける。
「まさかその、潤歩さんの初体験の相手って、獅琉さん……? だったりして……」
「なっ……!」
「正解! 初キスも初フェラも初バックも俺でした!」
「ひええ!」
「て、てめぇ獅琉! 簡単にバラしてんじゃねえぞクソが!」
「いいじゃん、亜利馬だし」
「良くねええッ!」
 よほど隠しておきたかったのか、潤歩の顔は噴火しそうなくらいに真っ赤だ。ここまで焦る潤歩を見たのは初めてかもしれない。

「いいじゃないですか。俺だって初めてのセックスは獅琉さんでしたし!」
「るっせえ、黙ってろてめぇはっ!」
「それに、ファーストキスは潤歩さんでしたし」
「っ、……」
「あはは、そうだったね! 亜利馬は生まれて初めてのキスを潤歩としたんだもんね!」
「……て、てめぇら人が黙ってれば……!」
 恥ずかしさによる潤歩の怒りが爆発する前に、獅琉が「でもさ」と俺達の顔を見て言った。
「亜利馬がもし好きな人できても、俺達は応援するよね。仕事のことだってバレたくなかったらみんなで色々考えるし、もしもバレて傷付けられそうになったら、俺達が絶対に亜利馬を助けるよ」
「……獅琉さん」
 相手もいないのに何だか結婚前夜の娘みたいな気持ちになって、思わずホロリとしそうになる。

「ていうか、こんなガキに惚れる男がいるってのかよ。家事もできねえしうるせえし」
「そうかな? 俺は亜利馬に惚れてるけど。潤歩だってそうでしょ?」
「へ?」
「大雅も竜介もさ。俺達みんな、亜利馬に惚れてるし大事にしたいし。もちろん欲情するし、可愛がって甘やかしたいって思ってるでしょ。でも亜利馬の気持ちが一番大事だから、無理強いはしないってだけでさ」
 俺は目を瞬かせて獅琉を見た。
「亜利馬はいい子だよ。潤歩が要らないっていうなら、俺がもらっちゃおうかな」
「ざけんな、バカ。こんな遊び甲斐のあるガキ俺が手放すと思ってんのか」
「ほら、やっぱ潤歩も亜利馬が好きなんじゃん」
「………」
 ──黙らないでよ潤歩さん。俺まで恥ずかしくなってしまうじゃないか!
 まあどっちにしても、と獅琉が箸を置いて続ける。
「俺が好きなのは亜利馬も含めてブレイズのみんなだからね。もちろんメンバーの誰かが引退して男と一緒になるっていう時は、心からお祝いするけどさ。それまでは五人でずっと笑っていたいなぁ。死ぬまでずっとこの楽しい感じが続けばいいなって、たまに思うよね」

「………」
 思ってた。俺も、そう思っていた。五人でずっといられたら……
 この先何年も経って大人になった時の俺には、また違う楽しいことや幸せなことがあるかもしれない。今は顔も知らない人と一緒に住んで愛されているかもしれない。
 だけど思うんだ。ブレイズのみんなと過ごしたこれまでの時間はきっとそれとは別物で、かけがえのない最高の宝物になるんだってこと。

「あ、亜利馬どうしたの?」
「なに泣いてんだお前」
「だ、だって俺、……」
 何も言わなくても分かってくれている、俺の大好きな先輩達。
 獅琉と潤歩は困ったように笑って、左右から俺の頭を撫で回してくれた。