亜利馬、落ちた先はセクハラ大地獄 -6-

 昼食時のレストランでは幾つもの好奇の視線を受けることとなった。
 デミグラスソースがたっぷりかかったオムライスを俺が一口食べるたび横から獅琉がナフキンで口を拭き、大雅が自分のカレーを正面から俺に「あーん」させて、食後のパフェを食べていたら俺の口元に生クリームが付いていたのを潤歩がキスで舐め取り、更にはお子様ランチに付いてくる鉄砲のオモチャを「金は払うから息子にそれを」と竜介がウエイトレスさんに言ったのだ。当然断られたけど。

 何なのかしらあの男の子。
 女王様みたいにイケメン達に奉仕させて。
 あの中で一番平凡な顔のくせに。
 ドチビが。

 ──ああ、周りの人達の声が聴こえてくるようだ。もちろん実際にそんなことは言われていないけれど、人々の俺を見る「目」がそんなふうに喋っているように見える。
 そりゃあ俺はブレイズで一番チビだし平凡顔だしセンスもないし、ドジでちんちくりんの短足鼻血小僧だよ。でもこの状況は俺がみんなに強いてるんじゃないし、どちらかといえば巻き込まれているのは俺の方だ。
 それなのにどうして被害を受ける俺ばかりが、好奇の目に晒されなければならないのだ!

「亜利馬、どうしたの? 怒ってる?」
「食事をしてから口数が減っているな。ご機嫌斜めか?」
「べ、別に……怒ってないですけど」
 エスカレーターで下の階へ移動しながら、俺は大きく溜息をついた。まだ昼を過ぎたばかりなのに、何だか5キロくらい痩せた気分だ。疲れた……。

「よし、そんじゃ次は亜利馬が元気出るような遊びしようぜ!」
 潤歩が俺達を連れて行ったのは五階のゲームフロアだ。クレーンゲームにシューティングゲーム、最新のVR仕様のレースゲームや懐かしい格闘ゲームの台もある。
「わ! すごい!」
 途端に目を輝かせる俺もまだ童心は残っているらしく、潤歩に手を引かれるままわくわくしながらその夢のようなフロアに入って行った。
「亜利馬、どれが欲しい」
 潤歩が俺をクレーンゲームの前に立たせ、中のぬいぐるみを見せる。正直どれもこれも小中学生の女の子向けみたいな動物のぬいぐるみで、あんまり欲しい物はないのだけれど……
「あ、それじゃあのオオカミがいいです。潤歩さんに似て凶悪な顔してる」
「よっしゃ、任せろ。一発でゲットしてやる」
 てっきり「誰が凶悪だ、ざけんなガキ」の暴言が飛んでくるかと思ったのに、今日の潤歩はちゃんとお兄さんらしく振る舞っているらしい。ともあれ俺達四人は潤歩がボタンでクレーンを操る様子を見守ることにした。
「お! すごいじゃないか……そのまま、その調子で……」
「いけ、いけ……あと少し……!」
「……あ、……落ちた。残念」
「クソ、もう一回だ!」

 その後も立て続けに四回失敗し、段々と潤歩が苛立ち始める。
「どうなってんだこのクソ機械。ぶっ壊れてんのか……アームのネジが最低ランクなんじゃねえだろうな……」
「あ、あの潤歩さん。無理しなくていいですよ。もっと軽くて取りやすい物でいいですから」
「男に二言はねえんだッ、この俺を見くびってんじゃねえぞ、ガキ!」
 あ、元の潤歩に戻った。

「……潤歩、代わって」
 大雅が潤歩と場所を交代し、投入口にコインを入れる。いつも眠たげな大雅のその目は、恐ろしいくらい真剣そのものだった。
 大雅がボタンを押し、クレーンが動き出す。
「本当に取れんのかよ、大雅ぁ」
 潤歩の呟きを受けながら、下がってきたアームがオオカミの頭の少しずれた部分を掠め……
「全然スカッてんじゃねえか」
「大丈夫……」
「あっ!」
 アームの先端が、頭のタグの輪っかに引っかかった。そのままスーと持ち上げられ、すぐ近くのシューターに落とされた。
「やったぁ! 大雅、凄い!」
 取り出し口からオオカミを取って、獅琉が俺の胸に抱かせる。
「良かったね亜利馬! 頼りになる大雅がいて」
「ありがとう大雅! 上手いんだね!」
「流石だな、大雅」
「ううん。……昔は、一人でよく遊んでたから」
 みんなに褒められて、大雅の顔は若干赤くなっていた。
 苛々した様子で潤歩が子供のように地団駄を踏み、「あそこまで取りやすくしてやったのは俺のお陰だぞ!」と大雅を睨む。
「うん。潤歩があそこに落としてくれたから、捕れただけ。俺の手柄じゃないよ」
「分かってんじゃねえか。……よし、そんじゃ次はアレを取れ。あのライオン」

 オオカミ、ライオン。次はトラで、更にはドラゴン。みんなの名前に絡んだ動物のぬいぐるみが、次々俺の腕の中に増えて行く。
「亜利馬は馬だよね。……でも、馬はないなぁ」
「いいですよ。俺はこうやって、みんなを抱きしめる存在になります」
 笑いを誘うつもりで言ったのに、獅琉と竜介に思い切り頭を撫でられた。
「亜利馬は天使だね。本当に良い子」
「ああ、俺達の自慢の末っ子だ」
「ちょ、ちょっと……頭ぐちゃぐちゃにしないでくださいっ……痛いですって!」