プロローグ

 ベッドに仰向けになったその体は汗で濡れ光っている。上下する胸元に荒い呼吸、赤くなった頬──顔は男の精液に塗れ、潤んだ瞳は半開き。屈辱と羞恥に蹂躙された俺の姿を映すのは、ENGと呼ばれる大型の撮影用カメラ。

 多くの人が一生のうち、限られた人にだけ見せるか見せないかというその姿を、俺は何百、何千、もしくは何万という人に見られている。一度世に出た映像は二度と消えることはなく、AVモデルという経歴も消えることはない。

 いやらしくて、汚くて、心身ともにキツい、どん底の暗い仕事。世間の人達からはそう思われているかもしれない。見知らぬ誰かの性欲を解消するために金でこき使われている、そういう意見もあながち間違ってはいないけれど。

「オッケーです! 亜利馬ありまくん、お疲れ様です!」
「お疲れ様です! タ、タオルくださいっ! 精液が鼻に……!」
 慌ててタオルを渡してくれるスタッフさん。ガウンを広げて待機するアシスタントさん。「ごめんね!」と両手を合わせて謝る相手役のモデルさん。
 顎鬚を撫でながら頷く撮影監督。その横でホッとした顔のマネージャー。笑いを堪えているスタッフもいれば、遠慮なく腹を抱えて笑っているスタッフもいる。

 いやらしくて、汚くて、心身ともにキツい、どん底の暗い仕事──そんなイメージがあるかもしれないけれど。

 少なくとも俺が契約しているゲイ向けAVメーカー「インヘル」の撮影現場は、いつでも笑い声に溢れていた。