第14話 サルベージの一夜

「おう、こないだはよくも玉雪にくだらねえこと吹き込んでくれたな」
「ちがちが、違うよ頼寿! 玉くんを応援しようと思って、俺なりに誠心誠意アドバイスした結果ですから!」

 午後七時。開店時間前のロッソ君のクラブ・サルベージにやってきた俺達。ロッソ君の顔を見るなり頼寿が文句を言うと、慌てたロッソ君が咥えていた煙草を処理してソファから立ち上がった。

「それに、快晴だって一緒になって言ってたし」
「快晴も詰めたが、俺のデタラメな性癖を吹き込んだのはお前だと吐いたぞ」
「……くそぅ、裏切り者め」

 俺はスタッフさんからもらったソーダを飲みながら、スポット代わりに蛍光灯の点いた明るいフロアを見回していた。
 すると──

「おお、玉雪くん。普段着も素敵だね、サルベージへようこそ!」
「あ、えっと……ローゼオさん!」

 奥のスタッフルームから出てきたロッソ君の彼氏にしてサルベージのオーナー、ローゼオさん──本名・桃原一郎さんがにこやかに両腕を広げてこちらへ歩いてきた。

「やや、どうしたのかなロッソと頼寿は。険悪ムードじゃないか?」
「大丈夫ですよ、頼寿怒ってないですから。それよりローゼオさん、今日は何か楽しいバイトをさせてくれるとか」
 そうなんだ、とローゼオさんが嬉しそうに言って、頼寿の前でシュンとしているロッソ君の足元に跪いた。

「ロッソ、玉雪くんと頼寿に今夜のイベントの説明をしなくていいのか?」
「あ、そうだった。今夜はサルベージのテキーラナイトなんだ。単純にテキーラの値段が安くなるだけなんだけど、これが結構お客さんに評判でね」

 ロッソ君の説明が始まった瞬間、跪いていたローゼオさんが両手両膝を床につけて四つん這いの体勢になった。
「わ……」
 思わず声を出してしまった俺の目の前で、ロッソ君が当然のようにローゼオさんの背中に腰を下ろす。

「いつもテキーラナイトの時はエロなステージやるんだけど、頼寿と玉くんに出てもらおうと思って、正式に依頼したのよ」
「エロステージって、デビュー前にここでやったようなやつ……?」
 訊きながらも、ロッソ君の下で息を荒くさせているローゼオさんから目が離せない。超絶男前が恍惚に満ちた表情を浮かべ、上に乗るロッソ君の重みに大興奮しているようだ。

 頼寿が煙草を咥えて、少し不満げに言った。

「急に呼び出すってことは、ステージの内容もコッチに任せるってことかよ」
「そうだよ、頼寿なら信頼できるもん。……それにさ、玉くんと『正式な』パートナーになって初めてのステージは、ウチで貰いたいし。それで急遽呼んだってわけ」

 ロッソ君らしいと思った。きっとこないだ快晴と一緒にお茶会した時には、もうイベントのことを考えていたのだろう。

「テキーラ飲み放題にするからさ、濃厚な本番セックスをお願いね!」
「そ、そんなロッソ君……!」
「玉雪が挿入本番できるようになったからって、早速儲けようとしてやがるな」
「そりゃ商売は大事だけど、もっと大事な頼寿と玉くんの初めての本番ステージなんて最高じゃん。どうしてもサルベージで欲しい」

 ロッソ君の目は熱意に燃え、

「おお……我が部下にして主のロッソ、お前の情熱が背中から伝わってくるぞ……!」

 その下のローゼオさんの目はとろけていた。