第12話 金曜日のふたり -7-

 頼寿の説得を受けた結果。会長は秋津社長との再契約を決意し、その場で秋津社長に電話をかけアポを取ってからマンションを出て行った。
 秋津社長の方も今回の件を本当に申し訳なく思っているようで、現段階では口約束であるものの三上グループの条件を全面的に受け入れるそうだ。

 もちろん三上会長は無理難題を押し付けるような人じゃない。双方納得のいく条件とそれが適用される期間をこれから会議で決めるとのことだ。

「……俺の問題なのに、俺よりも周りが傷付いたり……会長が悲しむのは嫌だ」
 温かいカフェオレを飲みながら独りごちると、頼寿がそんな俺を鼻で笑った。
「旦那はともかく、『周りが傷付くのは』ってのはタマちゃんらしからぬ発言だな」
「どういう意味だよっ?」
「それだけ少し大人になった、ってことだ」

 褒められているのは分かるが何とも言えなくて、俺は少しだけ頬を熱くさせながらカップに唇をつけた。

「でもまぁ、タマが心配してたことは解消されそうだな」
「そうだけど……俺、ちょっとだけ会長の顔見られなかったな。会長が悩んでる間、俺はその……」
「セックスしてたのが罪悪感ってことか?」
「だっ、だってさ! 火種は俺なのに……!」
「それを解決するのは旦那の責任だ。愛人契約ってのはそういうことだろ。愛人としての生活を提供する代わりに、旦那はお前の尻拭いをしなきゃなんねえ」

 確かにそうかもしれないし、それは会長自身も昔から言っていることだ。
 愛人として会長に迎えてもらった俺は、会長を色々な面で喜ばせて感謝のお返しをしている。それが俺の役割なんだ。

 会長を喜ばせること──頼寿との仕事も、その一環というわけで。

「俺とのセックスも厳密に言えば愛人契約違反じゃねえぞ。──まあ、事前報告の義務を怠ったから俺の方は違反したことになるがな」
「どういうこと?」
 目をパチパチせて頼寿を見上げると、頼寿が俺にも分かりやすく説明をしてくれた。

「『愛人』てのは『恋人、パートナー』じゃねえ。他で男を作ることも基本できるし、それを浮気とは言わねえんだ」
「え? そうなの?」
「そんじゃあ何が愛人の仕事かって言うと、契約してる旦那が『望んだ時に傍にいること』、それだけだ。それさえ守っていれば、誰とセックスしようがお前が罪悪を感じる必要はねえ。旦那の場合は更に性癖が変わってるから尚更だな」
「う、うーん……?」

 ということは極端な話、俺がいくら会長とパートナーになりたいと願っていても始めから会長にはその気がなかったということか。

「……頼寿と会う前は、凄く愛されてたって感じだったけど……」
「それは当然のことだが、愛人の自由まで管理することはできねえ。旦那はお前を本気で可愛がっているが、同時にお前の自由と意思も尊重してるんだ」

 何だか分かるようで分からない。
 好きだけど、それはペットに対する愛情みたいなものなんだろうか。

「つまりは、旦那の愛人しながら俺に抱かれてもお前は問題ねえってことだな」
「そ、そうなのかなぁ。会長に隠し事してる気がしてちょっと後ろめたさも……」

 頼寿がフゥと息をつき、火のついていない煙草を咥えてから俺の頭を撫で回した。


「……まあ、それはおいおい、な」