第12話 金曜日のふたり

 ロッソ君が呼んでくれた車に乗った後、俺は眠気と疲れ、そして隣に頼寿がいる安心感からすぐに眠ってしまった。
 バニー衣装の上からパーカを着て、尻尾がついたままのパンツの上からジーンズを穿いていたせいで、まだ体が窮屈だ。寝ながら身じろぎしていると、頼寿の手が俺の背中を押して体を自分の方へと倒してくれた。
 温かくて、大きくて……
 頼寿の膝枕で心地好い夢を見ながら、俺は小さな決意を固めていた。


 *


「ん……」
 気が付いたのはベッドの中。窓の外はまだ薄暗い。そろそろ夜が明ける時間らしいが、俺はふと違和感を覚えて身を起こした。
「あれ……?」

 てっきりマンションに運ばれたのかと思っていたが、違う。寝ているベッドも、部屋の内装も、俺の部屋とは全然違う。広いのにすっきりと片付いていて何だか素っ気なさすら感じるこの部屋は、もしかして……

「起きたのか。まだ寝てろ」
「頼寿……。ここって、お前の家……?」

 部屋に入ってきた頼寿は、片手に水のボトルを持っていた。ジャケットは脱いでいるがまだスーツ姿ということは、ここに来てそんなに時間が経っていないのかもしれない。
 ちなみに俺は中のバニーを脱がされ、大きなTシャツ一枚という格好になっていた。

「家というほど住んじゃねえが、まあ何かあった時のために借りている部屋だ。マンションよりここの方が近かったからな」
「そうなんだ。……ありがとう頼寿、俺あと少しでアイツの玉潰してるとこだったよ」
「旦那は良若に騙されてお前から離されていた。俺がついていなかったせいだ、……済まねえ」
「………」

 頼寿が謝るなんて意外だった。俺は慌てて首を振り、「そんなことないだろ」と早口で捲し立てる。

「そんなの悪いのはアイツに決まってるだろ。頼寿が悪いことなんて一個もないし、頼寿が来てくれたから俺は無傷で済んだんだよ」
「先方の要望通りの衣装を着せるのも考えものだな……二度とこんなことが起きねえように、これからは俺も気を付ける」

 ベッドの端に座った頼寿が、額を押さえて項垂れた。本気で自分のミスだと思っているのか、俺の顔を見ようとはしない。

「………」
 次は気を付けるとか、済まねえとか……

 そんな言葉よりもずっと、俺達にとって大事なことがあるじゃないか。

「頼寿」
 俺は手を延ばして、頼寿のシャツを引っ張った。
「なんだ」
「………」
 顔が熱い。
 だってまさか、俺の方からこんなことを言うなんて──出会った時に比べれば信じられないほどの変化だ。

「二度とあんなこと起きないって、分かってる。……でも俺あの時、もう駄目だって思った時に……すごく後悔したんだ」
「後悔?」
「……こんな奴にヤられるぐらいなら、早く頼寿とセックスすれば良かった、って」
 ほんの一瞬、頼寿の目が大きくなる。

「だからさ、……抱いてよ頼寿」

 言葉にしたその時、目から涙が零れた。怖いとか自棄になったとかではなく、何というか──心の中のデカい塊を吐き出したような、どうしようもなく切ない気持ちになったからだ。

「ずっと頼寿のこと考えてた。隣に会長がいた時も、良若に襲われてる時も、ずっと……」
「玉雪、……」
「何でこんな気持ちになるのか自分でも分かんなくて、……お前のこと大嫌いなはずなのに、大好きで堪んなくてっ……。会長のこと考えるとこれは浮気だとか、でも初めてセックスするのは、頼寿じゃなきゃ嫌だとかっ……」

 しゃくりあげながら告白する俺の両頬を、頼寿の手が包み込んだ。