番外編、大雅の物語 -3-

「キスはまだ慣れないか?」
「……息が上手くできない」
「それはそれで、燃えるんだけどな」
 恋人設定だから、キスの練習だって必要だ。服を脱がされる緊張感も味わっておきたいし、優しく見つめられる高揚感も知っておきたい。
 普段は割り切った演出をするために服も自分で脱いでいたが、今日は……今日だけは。
「………」
「俺が脱がしてもいいのか?」
「聞かないでよ」
 それもそうだ、と笑って竜介が大雅のシャツのボタンへ手をかけた。一つ一つ外されて行くたび、それを見つめる大雅の心音が速くなる。こんな偽りの行為でも嬉しくて堪らない自分が時々惨めになるが──他に手段を知らないのだから、仕方ない。

「何度見ても綺麗な肌だな。何食ってればこんな肌になるんだ?」
「別に。……陽に当たらない生活してただけ」
「灼けた肌も似合いそうだが。暖かくなったら、色々連れてってやるよ」
「………」
 それは恋人設定から出た言葉なのか、竜介の本心なのか。疑問に思っても答えはもらえないと分かっているから、大雅はそれについて考えるのをやめた。
「ん、……」
 竜介のキスはいつだって魔法がかっている。直前に何を思っていても、瞬時に思考を遮られる。泣けるほど甘くて笑えるほど切なく、仕事も練習も関係なくこれを受けることのできる男がいるかもしれないと思うと、……胸が痛い。
「口、開けろ」
 ぎこちなく伸ばした舌は簡単に絡め取られた。そのまま深く口付けられると体が震え出し、目には涙が滲んでしまう。竜介の激しいキスは大雅に少しの余裕も与えず、まだ数えるほどしか触れられたことのない大雅のそこを熱くさせた。

「は……」
 長いキスが終わったところで、動悸は収まらない。その先があると分かっているからだ。
「あっ、……!」
 濡れた舌は大雅の首筋、鎖骨、胸元へとセオリー通りに移動して行く。室内の寒さと愛撫への期待で尖った乳首に口付けられた瞬間、大雅は反射的に体を捩らせてしまった。
「嫌か」
「……分かんない……」
「まだ刺激に慣れていないだけかもな」
「──んっ」
 自分でもその通りだと思う。この仕事で初めて「男も乳首が性感帯になる」ということを知ったし、初めての撮影の時はそれをされてもあまり気持ち良いとは思わなかった。
 だけど、それなのに。
「っあ……」
 竜介にされる時だけ、訳が分からないほど敏感になる。胸に限ったことではない。体中どこもかしこも、竜介に触れられたところは全てが大雅の性感帯になる。熱くなって、疼いて、痺れて──。指示されなくても声が勝手に出てしまう。
「りゅう、すけ……」
「ん?」
「気持ち、いい……のかも、しれない」
「………」
 竜介の口が笑う形になり、再び大雅の乳首を含む。
「んっ、……ん、ぁ……」
 甘える声で愛撫を更にねだりながら、大雅はぎこちなく竜介の髪に触れた。月明りが差し込む部屋の中、竜介の髪はまるで柔らかな黒い絹のようだ。こういう時でないと触れないから、大雅は心地好い感触を指に覚えさせるためにもゆっくりと、優しく、その髪を撫で続けた。