第11話 木曜日のウサギ

 そういえばセレブの三上会長と年中一緒にいた時も、あまりパーティーというものに参加したことがなかった。会長が俺をパーティー会場に連れて行かなかったのは、当時の俺が会長の性癖を知らなかったからだ。
 会長が行くパーティー、イコール「そういうイベントがある系のやつ」。恐らくは俺を驚かせないように、敢えて連れて行かなかったのだろう。

「誕生日会? 誰の……?」

 その日の昼食後、快晴の手料理をたらふく食べて眠くなった俺はソファでウトウトしながら頼寿に聞いた。

「旦那が懇意にしている不動産ブローカーの愛人だ。明後日の夜九時、場所はそいつの家だとよ」
「何でそんな知らない奴の誕生日会に行くの?」
「仕事だからな」

 仕事か……。正直仮病を使ってでも行きたくないけれど、仕事なら仕方がない。また頼寿とエロいことをするんだ……大勢の前で。

「僕もお呼ばれしてるんですよ、坊ちゃん。それから『サルベージ』の店長も来るそうですよ」
「ロッソ君も? 良かった、快晴とロッソ君が来てくれるならまだ気が楽だけど……。んで、今回は何すんの?」

 ゴロ寝の恰好で訊ねると、シャツに手を入れて腹をかく俺をゴミを見る目で見下ろしながら頼寿が言った。

「今回は急な依頼だし、そこまで大掛かりなことはしねえ。ただお前に関しては衣装のリクエストだけもらっている。向こうで用意するそうだ」
「どんな衣装だよ」

 頼寿が快晴からタブレットを受け取り、何やら操作して俺の前に突き出した。
「……は?」
 そこに映っていたのは女性だった。金髪の巨乳美女がセクシーポーズでポールにしがみついている──謎のバニーガールの恰好で。

「何これ」
「お前の衣装だ」
「ふっ、ふざけんな! こんな格好できるわけないだろ! 絶対絶対嫌だ!」
「最新ゲーム機が十台買える報酬が出るぞ」
「……ぬう……」

 いや、金の問題じゃない。こんなの女の子だって嫌がる衣装だ。
 マイクロビキニっていうんだろうか。乳首だけ隠して尻丸出しのTバック、ウサギの耳にウサギのブーツ。ご丁寧にシッポまで。正気じゃない。こんなのを人前で着るなんて、一生モノの黒歴史じゃないか。

「いや無理無理。だいたいこれ、女用だろ? この水着みたいなやつ、俺が付けたら紐余りまくって乳首隠れないよ。意味無いよ」
「それはお前用に作るから平気だ。心配すんな、貧乳」
「で、でも俺がこんなパンツ穿いたら全部はみ出るし……」
「そこは坊ちゃんのためにちゃんと調整するそうですよ。あそこが大きくなった時のためにも」
「……快晴にこんなこと言いたくないけど、ほんとお前らいい加減にしろよ」
「俺達の案じゃねえ、先方の要望だ。そういう意味ではまぁ、ふざけた性癖の野郎共だな」

 俺は頭を掻き毟りながら起き上がり、目の前の二人に向かって唾を飛ばした。
「じゃあ二人の衣装はっ? 俺と同じくらいちゃんとふざけたやつなんだろうな?」
「同伴する彼氏はボンテージですけど、僕はスーツです」
「俺もスーツだ」
「何でなんだよぉ!」

 その後俺は三時間に渡って駄々をこねたが決定は覆らず、セレブ連中のイカれた思考を呪いながら快晴に寸法を測られる羽目になったのだった。