番外編、大雅の物語 -2-

 ケーキを食べ終わってからはしばらく会話を楽しんだが、喋るのは竜介ばかりで大雅はたまに相槌を打つくらいのことしか出来ない。喋るのが好きな竜介は特にそれを気にするでもなく、放っておけば毎回、寝落ちするまで喋り続けるのだった。

「はぁ……食ったら眠くなってきた。今日は泊まってもいいのか?」
「ん」
 断ったことなど一度もないのに、竜介はいつも大雅の許可を取る。ただ気を遣っているだけなのだろうが、大雅の気持ちとしてはもっと強引にきてもらっても良いくらいだった。竜介にならいつだって抱かれたい。都合の良い存在にされても構わないとさえ思っている。それでも竜介の性格を考えればセフレなんて作るような男ではないから、これまで何度体を重ねても、毎回その辺りの「駆け引き」に大雅は苦労する。
 竜介が寝てしまったら自分からは迫れない。だからいつも「眠い」と言われると、少しだけ悲しくなる……。
「竜介、眠いの」
「今日はハードな一日だったからなぁ。お前も眠いんじゃないのか?」
「……俺はまだ」
 その鈍感さは時に腹が立つが、拒否されるよりはずっと良い。大雅は小さく息をつき、ほんの少しだけ唇の端を弛めた。大雅なりの、精一杯の笑顔がそれだった。
「機嫌良いな。何かあったか?」
 誰にも気付かれなくても、竜介だけは分かってくれる。それだけで充分だ。
「竜介に教えてもらったフェラのやり方試したら、二階堂さんに褒められた」
「おお、良かったじゃないか。俺も役に立てたんだな」
「次の撮影は、恋人っぽいやつだって」
 我ながら不器用で、ずるい奴だと思う。大雅は仕事のやり方を聞くフリをすることでしか、竜介に抱いてもらえる術を知らないのだ。

「恋人なぁ。普通にしてれば自然っぽくなるとは思うが……」
「恋人なんていたことないから、分からない」
「意外だな。大雅、モテそうじゃないか」
「……全然」
「そうか、勿体ない。……それで? 恋人っぽくなるようなやり方を知りたいって?」
 竜介の顔は真剣だ。自分が後輩の口車に乗っているなんて微塵も思っていない。
「……うん……」
 少しだけ。あと少しだけでいいから、そのまま騙されていて欲しい──。
「それじゃあ、寝る前にちょっとやってみるか」
「……うん」
 心臓の高鳴りだけはバレないように。
 大雅はわざと素っ気なく呟き、立ち上がり寝室へ向かう竜介の背中をじっと見つめた。