第10話 頼寿先生のご奉仕講座

 都内の某高級ホテルは、会長と何度も行ったことがある。まさか浴槽がデンと部屋の真ん中に置いてある、全面マジックミラーのスイートがあるとは思わなかったけど。

「ん、はあぁ……」
 そこで俺達が行なったのは、少し前に頼寿と風呂場でしたことの焼き直しだ。もちろん会話はだいぶ変えたけど、概ね同じ。これが正式デビューかと思うほど呆気なく、俺の「お披露目」は終わった。

「素晴らしい。三上会長の玉雪くんを、ここまで愛らしく色っぽく仕上げるとは」
「ああ、流石は頼寿だ」
「素晴らしかったぞ、玉雪! 俺の玉雪は世界一だ……!」

 プレイが終わってから部屋に現れた「サロン」の人達は、皆嬉しそうに笑っていた。頼寿に抱きかかえられたままネコ足バスタブの中でぐったりしていた俺は、そんな男達の中に三上会長の顔を見つけてフニャリと笑う。

 正直言って眠いけど、会長が笑ってくれるならそれでいい。

「ううむ、玉雪くんが愛らしくセクシーだったのは本当だが……」
 メンバーの中で一番年寄りな人が、白い顎髭を撫でながら頼寿に言った。
「頼寿。血も涙もないサディスティックさが売りのお前にしては、玉雪くんの奴隷ぶりは少々半端ではないかな?」
「今回は調教がメインではないと言ったはずですよ、南川さん」

 頼寿が俺を解放して立ち上がり、アシスタントから受け取ったバスタオルを頭に被る。

「今回は三上会長の御要望で、なるだけ甘く仕上げましたからね。ハードな調教で玉雪を傷付けるプレイがお望みでしたら、まずは三上会長の許可を」
 頼寿に言われ、南川と呼ばれた老人は「むう」と押し黙ってしまった。会長が俺の体を傷付ける許可など出すはずないのだ。

 提供したショーに文句を言うな。暗に頼寿はそう言っている。


 *


 そうして会長と三人でディナーを楽しんでから、俺と頼寿はマンションに帰宅した。もう今すぐベッドにダイブして眠りたい。歯磨きも着替えも面倒だ……。

「タマ、話がある」
「ええ……明日にしてよ、もう俺眠い」
「大事な話だ」
「………」

 大事な話。

 頼寿に真剣な眼差しを向けられれば、嫌でも胸が高なった。先日の風呂場での出来事が、まだ俺の中で消化できていないのだ。

 ──俺専属の玉雪。
 ──安心して惚れていい。
 ──俺と来い。

 そんな台詞を言われた俺はどうしたら良いのか分からなくて、ただただ頬が熱くなる。

 別に、頼寿がどうしても俺の恋人になりたいって言うなら……ちょっとくらいは考えてやってもいいけど。そうなったら腹の立つことは一切禁止で、絶対俺にヤキモチ妬かせるのも禁止で、めいっぱい俺を甘やかさないと駄目で──

 そんなことを考えてモジモジしていた俺に、頼寿が言った。

「お前に『奴隷』とは何なのか、教えておく必要があると思ってな」
「へ……?」
「今まで強引にタマのMの血を刺激していたが、そもそも『奴隷』の役割や心構えを知らずに本番で発揮しろと言っても無理な話だった」

 頼寿が何を言っているのか理解できず、何度も瞬きを繰り返してしまう。

 大事な話って、それ?

「南川のサドジジイがお前を欲しがるぐらい、ステージ上だけでも完璧なボトムを演じられるようにするぞ」
「は、え……? 何だよそれ、いきなり言われたって何が何だか……」

 最後に頼寿が一つ咳払いをしてから言った。

「明日から俺の監修のもと、ハイパー奴隷講座を始める」