第9話 バブル&スイート -4-

 そうして店員さんの助けもあり、結果的に幾つかのバスグッズを無事に購入することができた。
「彼女さんと使うんですか?」
 なんて際どい質問を繰り出した店員さんにはヒヤヒヤしたが、頼寿の
「いや、こいつと」
 という台詞には頭が爆発するかと思った。他人の目を気にしないフリースタイル気質は結構だけど、TPOをわきまえて欲しい。
 キラキラなラメの入ったシャワージェルや薔薇の花びらが出てくる入浴剤、甘いキャンディの香りのバスバブルを俺と頼寿が使っている所を想像されたかと思うと、泣きたくなるほど恥ずかしかった。


「腹減ったな。何か食うか」
「いいけど、公共の場で変なこと言うのはやめろよ。店員の人めちゃくちゃ引いてたじゃんか」
「取り繕っても仕方ねえだろ。どうせもう会うこともねえし」
「お前はそれで良くてもさぁ……じゃあもうハンバーグ食おうよ」
「途中で主張を諦めんな」

 それから適当なレストランでハンバーグを食べて、デザートにプリンパンケーキも食べて、食後は仕事関係なく色々な店を見て回った。

「頼寿は欲しい物ないの? せっかくだし何かあれば見てもいいよ」
「別にねえな」
 結局初めに見たTシャツとスニーカーを買うことにして店に来たのだが、ここでも他の店でも、頼寿は退屈そうに俺を見ているだけだった。

「買う物決まってるなら早く済ませろ。俺は一服してえんだ」
「煙草吸ってきていいよ。喫煙所すぐそこだろ、終わったら向かうし」
「………」
「いや子供じゃないんだから、四六時中見張ってなくていいって」

 しばしの間何かを考えていた頼寿だがニコチン切れには耐えられなかったようで、「絶対迷子にだけはなるな」という言葉と財布を残して喫煙所の方へと歩いて行った。
 その隙に欲しかったTシャツとスニーカー、それからさっき目を付けておいた「ソレ」を持ってレジへ向かう。

「これだけ別で包んで下さい」
「かしこまりました、新しい物をご用意します」

 そうして買い物を済ませた俺が喫煙所に行くと、頼寿が咥え煙草で誰かに電話していた。

「──何度も言ってんだろ、今は忙しい。当分そっちには行けねえって。ワガママ言うな、我慢しろ」

 誰と電話してるんだろう。会話から察すると、電話の相手に「会いたい」的なことを言われてるみたいだけど。
 もしかして恋人? 愛人?
 思った瞬間、心臓が音を立てて高鳴った。

「分かってる。……ああ、俺も会うのが楽しみだ。早く抱きてえよ」
「………」
 紙袋の持ち手を握る手に、つい力が入ってしまう。

 会うのが楽しみって。早く抱きたいって。

「──もう切るぞ。仕事中だ」

 俺は仕事で、本命はそっちで。

「遅かったな、タマ」
「………」

 何で俺、微妙に傷付いてるんだろう。

 頼寿なんか大嫌いなのに。明日いなくなっても構わないぐらい、どうでもいい存在なのに。

「玉雪?」
「べ、別にっ? えっと、財布返すよ。待たせてごめん」
 しどろもどろになりながら頼寿に財布を渡し、別で包んでもらっていた「ソレ」を紙袋の中に押し込み、隠す。

「どうした?」
「ううん、平気。……もう用は済んだし、早く帰ろ」

 はしゃいでしまって馬鹿みたいだ。
 柄にもなく大嫌いな頼寿にプレゼントなんて、俺が勝手に舞い上がっていただけだ。

 会長以外の誰かと一緒に買い物なんて初めてだったから。
 何だかんだで頼寿に「頑張った」と言われたのが嬉しかったから。

「帰ろう」

 呟いた声は、自分でも情けなくなるほど小さなものだった。