第9話 バブル&スイート

「良かったぞ玉雪、流石は俺の玉雪だ!」
「はあ……ありがとうございます……」
 俺に抱きついて頬擦りしてくる三上会長がマンションに来たのは、ロッソ君の店で例のアレをしてから三日後だった。
 自分では未だに現実味がないが、こんなに会長が喜んでいるということは確かにあれは現実で、夢ではないのだろう。

「あのステージで我々の間では玉雪の話題で持ち切りだ。正式デビュー日も来週に決まったぞ」
「もうこないだのアレがデビュー日でいいじゃないですか……。また大々的にああいうことするの、嫌ですよ」
「何を言う。一昨日のステージはあくまでも『一般』向け、正式デビューは我々『サロン』向けのステージに立った時だ」
「サロン?」

 初めて聞く単語に俯いていた顔を上げると、会長が俺の頭を撫でながらニコニコ笑って頷いた。

「ああ、俺達のような趣味趣向を持つ者が集う会員制のサロンだ。海外にも太いパイプを持っているから、いずれは外国の本格的な大舞台にも立てるぞ」
「むむ、無理ですそんなのっ!」

 そこへ頼寿が紅茶を淹れたカップを持ってやって来た。

「会長。領収書をまとめた物があるんで、忘れないうちに渡しておきます」
「おお、悪いな頼寿。快晴も手伝ってくれてると聞いたぞ。礼をしないとな」
「快晴には今後も働いてもらうつもりなんで、月の給料という形で頂きたいです。それから、ロッソの店への報酬も色付けて貰えると助かります」
「勿論だ。みんな玉雪のために働いてくれてるんだからな」

 しれっと仲間への給料や報酬金の上乗せを要求する頼寿と、それを快く承諾している会長。……一体俺の世話に幾らかかっているんだろう。聞くのも恐ろしくて、俺は黙り込んでいた。


 そうして会長がマンションを出て行った後で、俺は洗い物をしている頼寿におずおずと訊ねた。

「あのさ、……今回のアレで、俺の報酬は……?」
「お前の通帳は俺が預かっている。お前に渡すと無駄遣いばかりしそうだからな」
「お年玉預かる親みたいなこと言うなよ!」
「欲しい物があれば俺に言え。菓子か、ゲームか?」
「……別に今はないけど……幾ら貰ったの?」

 頼寿が水道を止めて、タオルで手を拭きながら俺を振り返る。

「初ステージの祝儀を含めて五十万だ」
「ごじゅっ……本気で? そんなのおかしい、それこそ会長の無駄遣いじゃんか!」
「安心しろ。俺はその倍貰っている」
「ひゃ、……」

 会長が金持ちなのは分かっているけど、何故そんなに注ぎ込めるのか不思議で堪らない。世の中趣味に金をかける人は多いから、訊ねたところで納得できる答えは返ってこないだろうけど。

「そ、それで来週に『サロン』とかいうやつで正式デビューがあるとか……」
「ああ、旦那みてえな変態趣味の金持ち野郎が集まるサロンだ。来週の金曜、ホテルの一室でやるらしい」
「変態趣味の金持ち野郎って、酷い言い方だな……。でもホテルか、前みたくクラブじゃないんだ」
「俺達のステージはクラブだけじゃねえからな」

 意外だったけれど、ホテルならクラブと違ってそこまで広くはないだろう。サロン限定というのも何だか小規模感があるし、もしかしたら正式デビューの方が一昨日よりはマシかもしれない。

「……まぁ、何が『マシ』なのかは分かんないけど」