第7話 頼寿と会長と怒涛の夜 -2-

 午後七時──。

「食ってみろ」
「ん。──うわっ、パリパリ! アツアツでパリパリ!」
「どうだ、大したモンだろ」
 知らなかった。ポテトチップって作れるんだ。出来たてのポテトチップって熱いんだ。
「タマちゃんがカットしたチップは分厚いけどな」

 俺は一度も使ったことのない立派なキッチン。包丁だって初めて握った。油を熱すると揚げ物ができる。味付けも塩コショウだけじゃない。

 頼寿と一緒に作ったポテトチップは美味かった。塩味のシンプルさが最高だった。俺が休み休みジャガイモの皮をピーラーで剥いている間に、頼寿は次々メインの料理を作っていた。
 俺が皮を剥いたジャガイモの芽を、頼寿が包丁で取ってくれた。二人で薄くカットして、油を張った鍋に入れたのは俺だ。

「美味しい……手作り最高」
「おい、全部食うなよ。夕飯の前に腹が膨れるぞ」
 気まずさも恥ずかしさも、気付けば全部吹き飛んでいた。ポテトチップの美味さと、頼寿の流れるような料理の腕前のお陰だ。

「昼間から何時間もかけて飯作るなんて、変な感じ。頼寿、どうしてこんなに料理できるの? 料理教室とか行ってた?」
「奴隷の食事管理をしてたらいつの間にか、な」
「……聞かなきゃ良かった」

 溜息をついたその時、リビングにインターホンの音が響き渡った。
「会長だ!」
「早かったな。飯もできたし丁度良かった」
 急いで玄関へ飛んで行き、チェーンロックを外してドアを開ける。
 そして──

「玉雪!」
「会長!」

 二週間ぶり……もっとずっと会っていなかったような気がする。会長はあの誕生日の夜と少しも変わらないダンディさで俺を抱きしめてくれた。
 いい匂い。会長の温もり。名前を呼ぶ声。
 俺の好きな三上会長だ──。

「寒かったでしょう、旦那。中にどうぞ」
「おお……頼寿! 玉雪を世話してくれて感謝するよ、ありがとう」
「いえ……」
 頼寿は小さく笑っていたが、何故かその目は会長を見ていない。

 コートを脱ぎ、俺の肩を抱いてリビングへ向かう三上会長。頼寿は受け取ったコートを抱えながら俺達の後ろを歩いている。雇われているという立場ではあるけれど、他人に仕える頼寿というのは何だか見ていて変な感じがした。


「うむ、実に旨い!」
「凄いですよね。頼寿が全部作ったんですよ。このポテトチップは俺も少し手伝ったんです!」
「玉雪は頑張り屋だな。流石だ、偉いぞ」
 久しぶりだからか、会長は大袈裟なほど俺を褒めてくれた。俺の頭を優しく撫でて瞳を見つめ、心からの愛情を込めて「玉雪」と俺を呼んでくれている。

 頼寿とは比べものにならないくらいの優しさだ。……だけど何ていうか、それは……

「会長。玉雪の成長は料理だけじゃねえですよ。少しずつですが、他人を思いやる心や協調性というものを持ち始めています」
「おお……何と……」
 まるで子供扱い。頼寿のそれは小学校の先生が言う台詞みたいだった。……実際、俺は通知表に「協調性に欠ける」と毎回書かれていたけれど。

「やはり頼寿に任せて正解だった。──それで、どうだ。ビジネスの方は進んでるか?」
「っ……!」
 唐突にその話が出て、俺は危うくロールキャベツを噛まずに飲んでしまいそうになった。