第6話 あめ欲しい! -6-

 その夜は快晴が変なことを言ったせいで、なかなか寝付くことができなかった。

 柔らかくて温かいベッドの中、もう消えかけてしまっている会長の匂いを必死に探しながら目を閉じる。明後日には会長に会えるんだし、頼寿のことを考えている時間なんてない。……もし本当に夜這いに来たら、足で蹴り出してやる。

「………」
 そんな決意をしたにもかかわらず俺は、このベッドで頼寿に触れられたことを思い出してしまった。荒々しい手付きで、品のない言葉で、濡れた舌で……あんなに乱れたのは初めてのことだった。
 ベッドでだけじゃない。ロッソ君の店でも、それから今日、リビングのソファでも。

「だ、駄目だ。考えるな俺の馬鹿っ……」
 今日に限っては一瞬のことだった。ほんの一秒、頼寿の舌が触れただけ。
「っ……!」
 あの一秒の快感が強烈な熱と共に蘇ってきて、俺は布団の中で体をきゅっと丸めた。

 寝てしまえば朝になる。明日もう一日だけ頑張れば会長に会える。
 だけどもう遅い。俺の体は既に泣きそうなほど濡れている──。

「……耐えろってば……こんなの駄目だよ、アイツの思うつぼじゃんかぁ……」
 パジャマの上から自分でそれを握り、何とか鎮めようと深呼吸する。汗が噴き出て涙が滲み、高ぶりを怒りに変化させようと頼寿のムカつく顔を思い浮かべる。

 ──いい子にするなら褒美をやる。

「頼寿っ……!」
 低い声の囁きが頭の中に響いた瞬間、俺は布団を跳ね除けて体を起こしていた。
「……あ……」

「よう、俺の夢でも見てたのか」
 月とスタンドライトの灯りに包まれた、薄オレンジ色の部屋の中。
 入口のドアに、頼寿が立っていた。

「な、何で……何してんだよ俺の部屋で……」
 腕組みをして不敵な笑みを浮かべているその顔は、こうなることを始めから分かっていたかのようで気に食わなかったが……
「タマちゃんのことだから、そろそろ俺が欲しくて泣いてんじゃねえのかと思ってよ」
「………」
「一緒に寝てやろうか?」
 俺が答えないのを同意の証ととった頼寿が、ゆっくりとベッドに近付いてくる。来るなという言葉が出てこなくて、俺は情けなさと期待に潤んだ目で頼寿をじっと見上げた。

「………」
 ベッドに入ってきた頼寿が、両腕で俺を抱きしめる。大きな体に広い胸。すっぽりと包み込まれた俺は、頼寿の胸元のシャツを掴んで唇を噛んでいた。

 ──昼間の続き、欲しい。
 ──はやく。

 口に出して訴える勇気はないくせに、体だけは一丁前に反応している。全身を頼寿に押し付けながら小さく息を吐き出すと、背中に回されていた頼寿の片手が少しずつ体の下側へ移動していることに気付いた。

「ん……」
「柔らけえな」
 パジャマの上から尻を揉まれて、頬がほんのり熱くなる。
「あ、あ……」
 尻なんて性感帯じゃないのに、捏ねるように強く揉まれているのに、そんな若干の痛みすら心地良い。俺は頼寿の胸に顔を埋めて震えながら、この後約束されているであろう快楽を想って声を漏らした。

「んん、……や……」
「言うことあるか? タマ」
「さ、触って……。もっといろんなとこ、気持ちいいとこ……触って欲し……」
 意地悪で冷たくて大嫌いな頼寿。なのに今は頼寿に触ってもらいたくて仕方がない。あの指の一本一本が俺の体に触れるかと思うと、期待だけで反応してしまう。

「いい子にしてれば飴をやる、って約束したもんな」
「い、いい子にするっ……から、触って……我慢できない、お願い……」
「お前のそれは、口だけだからなぁ……」

 もう駄目だ。

 頼寿の「飴」が欲しくて、欲しくて、頭がおかしくなりそうだ──。