第6話 あめ欲しい! -2-

 頼久の目が妖しく光った気がした。

「そんな子供騙しは通用しないから。別に俺はお前から飴を貰いたいなんて少しも思ってないし」
「そうかい、タマちゃんは謙虚だな。だが三上の旦那から貰える飴なら欲しいだろ?」
「会長が何か関係あるの?」
 馴れ馴れしく俺の髪に人差し指を絡めながら、頼寿がフッと小さく笑う。
 会長からの飴なら大歓迎だ。どんなにしょぼいご褒美でも手放しで喜べる。

「三日後には旦那がここへ来る。その時、タマが俺に悪態をついたり生意気な態度を取っていたら……旦那は非常にがっかりするだろう」
「何で? 俺が他人に屈するのを嫌がる性格だってのは、会長も知ってるし」
「考えてみろ。旦那は俺をお前への『プレゼント』として連れてきたんだぞ。誰でもプレゼントをあげる時は、相手の喜ぶ顔を思い浮かべる。だろ?」
「まあ……」
「旦那はお前のために『俺というプレゼント』を大枚はたいて買ったんだ。それなのにお前がその贈り物を蹴り飛ばしたら……旦那はショックだろうな」
「………」

 確かに会長は無条件で頼寿を信頼していたようだし、純粋にこの男を俺のために用意したということも分かっている。

 頼寿のことは大嫌いだし、何なら頼寿から受けた仕打ちを会長に告げ口してやろうかとも思っていたけれど……こいつの言う通り、そんな俺を会長はどう思うだろう。

「……でも、何だよ。それじゃあ会長の前ではお前と仲良くしろってこと?」
「わざとらしくする必要はねえが、少なくとも『お前』なんて呼ぶのはなぁ……」
 それこそわざとらしい口調で言いながら、頼寿が人差し指に俺の髪をくるくる巻く。

「分かったよ、会長の前ではちゃんと名前で呼んで生意気なことも言わない。これもビジネスなんだろ」
「その通り」
 髪を巻いていた頼寿の指が、ふと俺の耳に触れた。
「んっ……?」
 そのまま耳の縁をなぞられ、背中にゾワッと悪寒が走る。
「ちょ、やめろ……耳」
「悪い、嫌だったか」

 意外なほどあっさりと頼寿の指が離れ、俺は心の中で溜息をついた。

 いかに嫌いな奴とはいえ、頼寿とは何だかんだでとんでもなくヤラシイことをしてしまっている。向こうから勝手にしてきただけだけど、そんな相手に意味深な触り方をされると嫌でも変な汗が出てしまうんだ。

「………」
 気持ちではムカつくのに、体が「覚えている」……? 頼寿の手と唇、あの快感を。

「顔赤いぞ」
「別に……」
 全く調子が狂う。俺はアメを舐めながら頼寿を横目で睨み付け、さりげなく尻を横に動かし距離を取った。

「美味そうに舐めるな。舌使いがエロい」
「……なっ、何を……どこ見てんだよ、変態!」
「褒めただけだろ」
「嬉しくない! ……あっ、何すんだ!」

 俺の手からアメの棒を奪った頼寿が、それを俺の口元に近付けて言った。

「舐めろ」

「………」

 ごく自然に、当たり前のように。
 俺がそうすることを予め分かっているかのように、頼寿がそう言った。