第5話 絶対服従ゲーム -6-

 それから頼寿がソファへ座るように言ってきたので、俺は警戒しながらも頼寿の隣に腰を下ろした。
「よ、っと」
「わっ?」
 頼寿が俺の両脚を持ち上げ、自分の膝の上に乗せる。横向きになった体を肘掛けに寄りかからせる体勢になり、何だかイチャつくカップルみたいで恥ずかしい。

「荒れた生活をしていたと聞いてた割には美しい肌だな。若さの特権か?」
「いいもの、食べさせてもらえたから……会長に」
 頼寿の指が俺の太腿を這う。
「ひっ、……」
「親はどうした。捨てられたのか?」
「……質問に答えるのも『ゲーム』のうち?」
「まあな」

 俺はこれまでの過去を頭の中に蘇らせた。

 覚えているのは暗い部屋。電気もつかない、水も出ない、誰もいない部屋。
 お父さんは刑務所、お母さんは売春婦。そんな絵に描いたような最悪の環境で俺は十六年育った。

 何を食って生きていたのか覚えていない。
 小学校の同級生から「服も体も臭い臭い」といつもからかわれていたのは覚えている。
 お母さんからは殆ど無視されていたけれど、ぶたれたりはしなかったというのも覚えている。
 お母さんの顔は薄らとしか覚えてない。だけど声は覚えている──あんた、幾らになるかしらね?

「自分の息子を売ろうとしたのか」
「……イライラしてただけだよ。別に気にしてない。もう会うこともないしさ」
 過去を思い出すといつも少しヘコんでしまう。頼寿はそんな俺をじっと見つめていたが、その目にはさっき放尿プレイをした時に見せていたような冷たさはなかった。
「悪かったな、興味本位で聞いちまった」
「べ、別にいいよ。お母さんがクソだったお陰で俺は会長に会えたんだし……こんな生き方の割にツイてる方だと思うよ」

 過去は過去で、あの頃には二度と戻ることはないと確信しているからこそはっきり思い返すことができる。トラウマもないし悪夢も見ないのは、全部三上会長のお陰だ。

「強いな」
「………」
 頼寿が珍しく微笑んで、俺の頭を撫でてきた。別に会長以外に褒められたって嬉しくないけど……ほんの少し、頬が熱くなる。

 その時、玄関でインターフォンが鳴った。

「だ、誰か来た」
「そういや荷物を頼んだんだった。届いたかな」
 頼寿の手が俺の頭から顎へと移動し、そのままクイと軽く持ち上げて言った。
「受け取って来てくれ、玉雪」
「へ? ……で、でも服……」
「受け取って来い」

 またさっきの冷たい目……何なんだコイツ、二重人格か。
「せ、せめてパンツ。通報されちゃう!」

 またインターフォンが鳴った。

「いいいやいや、それは人としてダメなやつでしょ。通報されたら頼寿が捕まるんだぞ。配送員にも迷惑だってば」
「その辺のことは気にするな。受け取って来い」
 さっきとは比べ物にならないほどの緊張感で、全身から汗が噴き出してくる。逆らえばゲームは終わりなのに……頼寿の目が怖くて拒否できない。

「ほ、ほんとに……?」
「早く行けば早く終わる」

 またインターフォンが鳴って、ソファから降りた俺は震える足で玄関へ向かった。

 どうしよう。どうしよう。本当にこのまま対応しなきゃいけないのか。裸で……。配送員が女性だったらどうするんだ。こんなくだらないゲーム、誰も得しないのに。
「……ど、どうぞ」
 モニターに映っていたのは男だった。女性でないことに安堵して、取り敢えずオートロックの解除をする。

 その隙にせめてタオルを腰にと思ったが、いつの間にか背後に立っていた頼寿が無言で俺の行動をチェックしていた。……駄目だ。
 動揺しているうちに、いよいよ玄関のチャイムが鳴ってしまった。

「よ、頼寿……!」
「……どうする?」
 意地悪に歪んだ口元。嬉しそうな顔。
「う、ぐぐぐ……ちくしょう……!」

 俺は玄関から脱衣場へ飛び込み、洗濯済みのパンツを引っ掴んで絶叫した。

「ギブアップだ馬鹿あぁッ──!」