第5話 絶対服従ゲーム

 思い出すだけで死にたくなるほど恥ずかしいあの時間から、一夜明けた今日。
「………」
「おう、今日は起こさなくても自分で起きたな」
 寝惚けた顔でリビングへ行くと、既に朝食の支度を終えた頼寿が換気扇の下で煙草を吸っていた。

「お腹減った」
「昨日、飯も食わずに寝ちまったもんな。好きなだけ食え」
 頼寿と顔を合わせるのは気まずいけど、空腹には敵わない。俺はダイニングテーブルの前にちょこんと座って、いただきますも言わずにフォークを握った。

 今朝のメニューはホウレンソウとベーコンのオムレツ、カリカリのガーリックトースト、トマトスープ。
 いつの間に買ってきたのか、俺を馬鹿にしているとしか思えないクマの絵が付いたプレートとランチョンマットまで用意されていた。

「何この皿。俺のこと何だと思って……」
「今朝届いた、三上の旦那からの支給品だ。文句言って返品するか?」
「………」
 会長。この際このプレートが誕生日プレゼントと言われた方がずっと良かった。

 頼寿は適当な茶碗にトマトスープをよそい、スプーンも使わず、立ったまま口を付けて飲んでいる。行儀悪い。

「よく噛んで食えよ。牛乳も飲め。ブロッコリーをよけるな」
「……頼寿こそ注文多い。俺も対価を要求しようかな」
「うし印のカフェオレとアイスなら既に買ってきてあるぜ」
「………」
 デザートがあると分かってちょっと嬉しかったけれど、顔には絶対出してやらない。お礼だって言うもんか。頼寿は俺の世話係なんだ、それくらいして当然だ。

「それから、旦那に連絡して週末に来てもらうことになった。そろそろ一度旦那に会いてえだろ」
「え……? あ、ありがとう……!」
 あっさりお礼の言葉を口にしてしまったが、これはこれだ。

 会長に会える──。俺の誕生日の夜からそこまで日は経っていないけれど、こんなに会えない日が続いたのは初めてだから胸が高鳴って仕方ない。

 会長に会ったら頼寿の愚痴を言う。恥ずかしいことをされたのは言えないとしても、俺に対して態度が冷たいとか、後は……特にないか。

「やった。会長来たら一緒にゲームして、ご飯食べて、お風呂入って……」
「お前の成長も見てもらわねえとな」
「数日しか経ってないよ、成長も何も……ていうか今更、身長伸びるわけないし」
「そっちじゃねえよ、タマちゃん」
「ん?」

 煙草を消した頼寿がナフキンを取り、俺の方へ近付いてくる。
「中身の話だ」
 そうして俺の口元に付いていたらしいパンくずをサッと拭き、空いたプレートを下げてシンクの方へと戻って行った。

「旦那の好みに近付いた玉雪を見せてやろうぜ」
「か、会長の好みって、その……SMの話の? エロい奴になったかどうかっていう……?」
「まだそこまでは難しいだろ、その前の話だ。──玉雪、SMの基本は何だと思う」
 基本。何だろう。虐められること……? だから頼寿は俺に冷たいのか?

「ム、ムチで叩いたり……?」
「いや、それ以前に『ルールを明確にしておくこと』だ。トップの主導権はどこまで有効なのか、ボトムの権利はどこまで許されるのか。セーフワードを決めておく、とかな」
「トップがSで、ボトムがM?」
「ああ」
「セーフワードっていうのは?」
「プレイ中、ボトムが体や命の危険を感じた時に使う言葉だ。プレイ中断の合図だな」
 何だその恐ろしいルールは。

「じゃ、じゃあ俺のセーフワードは『やめろ馬鹿』にしようかな?」
「始まった瞬間に言うだろ、それ」