亜利馬、初めての生配信 -2-

 シングルサイズの寝具セット、食事用テーブル、カーテン、クッションとか。テレビはまだ要らないかな。
 掃除用具、風呂用タオル、傘立てにスリッパ。一から全ての生活用品を揃えるのって、結構大変なんだと初めて知った。実家の便利さを思い出し、足りない脳をフル回転させて家にあった物を思い出す。今思い付かないものほど、気付いた時すぐ必要だったりするのだ。
 でも──
「うーん。後は、また必要になった時メモしておけばいいや」
 広くて迷路のようなホームセンターで、俺はカートを押しながらスマホのメモを閉じた。徒歩で行ける距離にこんな便利な店があるなんて流石は都会。俺の田舎じゃこうはいかない。どこへ行くにも車がないと話にならないから、毎回の買い物で「買い忘れ」は許されないことだった。

 大きな物は後日の配達を頼み、持って帰れる物だけレジを済ませて店を出ると、尻ポケットの中でスマホが振動した。
「あれ、山野さんからだ。どうしたんだろ……」
 重い荷物を腕に引っかけながら片手で通話マークを押し、耳にあてる。
「お疲れ様です、亜利馬です」
〈亜利馬か。今、どこにいる〉
「ホームセンターで買い物してました。部屋用意してもらったので、生活用品とか、色々買ったんですよ」
〈そうか。休みの所悪いが、今から来れるか。なるべく早くだ〉
「い、行けますけど、……何かあったんですかっ?」
 山野さんの声は普段と変わらないクールなものだったけど、どことなく切羽詰まっているようにも聞こえた。釣られて、俺まで焦ってしまう。
〈説明は後でする。荷物を持ったままでもいいから来てくれ。後で車で送らせる〉
 ここからだとマンションよりもインヘルのビルの方が近い。寝具セットもあったから、正直言って車で運んでもらえるのは助かる。
 いや、それより何より、冷静沈着な山野さんが慌てているということの方が重大だ。何かただごとではないトラブルでも起きたのだろうか。嫌な予感に、鼓動が速まってくる。
 すぐに行くと伝えてスマホを閉じ、俺はマンションとは反対側の交差点を渡った。

「なっ、は、……」
「生配信だ。インヘルの動画チャンネルのライブだ。今日の午後八時から九時までの一時間。出てくれるな」
「どっ、どうして俺なんですか? そしてなぜ突然っ?」
 午後五時。布団にカーテンにその他細々とした生活用品が詰まった袋。それら全てを会議室の隅に置かせてもらったはいいものの、とんでもない話をされて俺はブンブンとかぶりを振った。
「無理です、そんな急に生放送だなんて。絶対無理ですっ」
「お前、色々なことに挑戦したいと言っていただろう。無理だと思えることでも頑張ると言っただろう」
「それは、企画ありきの話ですよっ。俺なんか出したって無言の愛想笑いで終わるだけです!」
 無言の愛想笑いならまだ良い。最悪の場合、挙動不審のニヤケ笑いで終わる可能性だって大いにある。

「企画があれば良いんだな」
 山野さんがテーブルにパソコンを開き、ぐるりと回して俺に見せた。
「今回のライブではお前へのインタビューとファンからの質問に答えること、それからお前自身の次作の宣伝、ブレイズの動画が月2回ペースで配信されると決まったこと、そして最後にお前からファンへの感謝の気持ちを伝えればいい。たったそれだけだ」
 早口で捲し立てられ、頭の中が真っ白になる。
「何で俺なんですか……?」
 かろうじて出た疑問をぶつけると、眼鏡の奥で山野さんの目が鋭く光った。
「本来出るはずだった竜介が、夏風邪で喉を壊してな」
「え?」
「スケジュール的にお前しか空いていなかった。ブレイズ代表として頑張ってくれ」