亜利馬、根性の新境地開拓 -6-

「亜利馬、大丈夫?」
「……ごめんなさい……俺、……」
 急遽用意されたマットレスの上に全裸のまま仰向けになり、獅琉にうちわで仰いでもらう俺。羞恥心が決意を上回った結果久々に鼻血が出て気絶してしまい、今も頭の中がぐるぐる回っている。
「これ以上の撮影は今日のところは無理かもね。……二階堂さん、山野さん。どうしますか?」
 獅琉が隣に立った二人に顔を向けて言った。二人とも腕組みをして俺を見下ろしている。
「……ごめんなさい二階堂さん。山野さん……」
「いや、よく頑張った。謝ることはない」
 二階堂さんが顎鬚を撫でて笑い、
「ああ、それに後のベッドシーンとは元々日を分けて撮る予定だったからな」
 山野さんもそう言って頷いてくれた。
「………」
「そのまま少し休め。自社スタジオだから時間は気にしなくていい」
 二階堂さんと山野さんがフロアの隅へと移動し、取り出した書類を捲りながら何かを話し合い始めた。

「亜利馬」
 獅琉がうちわを床に置いて、俺の手を握る。──俺が泣いているのに気付いたからだ。
「そんな落ち込まなくていいんだよ。モデルの体調が第一優先なんだから」
「……でも俺、自分からやりたいって言って、企画書見た時も自分でできるって言ったんです。なのに撮影途中で気絶して、スケジュールもめちゃくちゃにして、みんなに迷惑かけて……本当に……何やってんだ、俺……」
 本当は俺の放尿シーンが終わってからすぐに、獅琉と俺が射精するシーンも撮る予定だった。一番大事なシーンを撮れず、なおかつ俺の決意を受け止めてくれた山野さんの期待も裏切って……。
「……悔しいです、俺……獅琉さん。どうしたらもっと上手く行くんだろう……」
 獅琉がタオルで俺の顔を拭きながら、笑った。
「亜利馬は良い子だね。それだけ真面目に取り組んでるってことだもん」
「……失敗してたら、何の意味もありません」
「そんなことないよ。亜利馬、失敗したって次に生かせばいいんだから。それに亜利馬が軽い気持ちで受けた企画じゃないってことも、みんな理解してる。そんなに自分を責めなくていいんだよ」
「………」
 俺は唇を噛んで涙を拭い、ゆっくりと床に腕をついて身を起こした。
「俺、やれます」
「亜利馬?」
「続きやれます。やらしてください──」

 俺達がしているのは「こういう仕事」だから。撮影途中でのハプニングも、それによる撮影や企画自体の中止も、それほど珍しいことではないらしい。それこそモデルの体調一つでスケジュールが変わることもあるし、途中で怖気づいた新人がそのまま出演自体を辞めてしまうパターンもある。
 頑張ってもどうにもならない時もあって、今回の俺のケースもそうだった。結局俺はあの後、続きの撮影をやらせてもらえなかったのだ。

「お前の根性は認める。けど、根性だけで出来るモンじゃねえ」
 今日はもう帰っていいとマンションまで送ってもらい、ソファの上で丸まっていた俺にそう言ったのは潤歩だった。まだ自分の仕事が残っていた獅琉からメールを受けたらしく、わざわざ部屋を訪ねて来てくれたのだ。
「ていうか、根性のあるモデルだからこそ次を見越して休ませる。獅琉が前に言ってた悪質なメーカーなら、モデルが鼻血出そうが気絶しようが続行させてるけどな。お前は、ていうか俺達は、会社側からしてみれば大事な商品だ。それなら言われた通りに今日は休んで、次また根性見せればいいんだ」
「……潤歩さんも、こういうことってありましたか」
 ソファ前のテーブルに腰かけて俺を見ていた潤歩が、「まあな」と言って小さく笑った。