第3話 ROSSO

 ──玉雪。お前は本当にいい子だね。
「あ……会長……。もっと言って。もっと撫でて、抱きしめて……」
 ──玉雪。これからは頼寿と二人で、業界一のSMスターとなって私を喜ばせてくれよ。
「か、かいちょ……。俺、そんなの……そんなのっ……」

 ──さあ起きろ玉雪。これからお前の新しい世界が始まるぞ。

「待って会長、俺はそんなのやりたくな──」

「起きろ、コラ」
「あうっ!」
 いきなり強く鼻を摘ままれて、俺は三上会長との甘い夢の中から現実へ強引に引き戻された。

「い、痛いっ。何すんだよ頼寿っ!」
「もう十時だぞ。いつまで寝てるつもりだ」
 朝──目覚めてすぐそこにあるのが頼寿の顔だなんて、今日一日の幸先が悪過ぎる。

「……もう少し優しく起こしてくれたっていいのに」
「咥えてやった方が良かったか?」
 本当に下品な奴。俺は頼寿を無視してベッドを降り、さっさとリビングへ向かった。

「お前、寝る時はノーパン派か」
「………」
 パジャマ代わりとして着ているのは、クマの絵が付いたデカくてユルいTシャツ一枚。会長が「萌える」と言ってくれた時から俺のパジャマとなったこのTシャツも、もうこれで三代目だ。
「ケツが見えそうだぞ玉雪」
「もういいから、朝飯。メニュー何?」
 ニマニマと馬鹿にしたように笑いながら、頼寿が俺の後をついてくる。

「今朝はトマトレタスサンドとツナサラダ、野菜ジュース、オレンジヨーグルトだ」
「偉くさっぱりしてるな」
「そりゃ、これからはお前の健康にも気を遣わなければならないからな」
「ふうん。よく分かんないけど色々ありがと」
 思い切り皮肉を込めて言うと、頼寿が「どういたしまして」と俺の寝癖だらけの髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。