ブレイズロックの日常 -2-

「待機室のエアコン掃除も業者に頼まねえと。確か電球も一つ切れかけてたんだっけか?」
 受話器を置いた俺に、ハルトが問いかける。
「うん。あと、ドリンクサーバーもメンテナンス入れないと」
「そうだ、それがあった。やること多いな」
 直接売上げに関係のないことでも、俺達にとっては大事なことだ。
「チルがよく気を利かせてくれるから助かるぜ。この調子で頼むぞ」
「う、うん。いいけど……」
 唇を寄せてくるハルトを拒むことが出来なくて、俺はパソコンのキーボードに手を置いたまま硬直した。──確かにエアコンがないと暑いかもしれない。幾ら二人きりだからって、急にキスをされて冷静でいられるほど俺はこういうことに慣れていないんだ。

「ハルト! チル!」
 その時、俺達の背後でけたたましい音と共に事務所の扉が開いた。

「おっ」
「玲遠さん! 大河っ!」
「久し振り! 遊びに来たよ!」
 アロハシャツにビーチサンダル姿の玲遠。肌も程よく焼けていて、金髪と合わせて見ると陽気なチャラ男みたいだ。ブレイズにいた時はあんなにも王子様な雰囲気だったのに。
 大河の方は前とそれほど変わらないが、相変わらずの男前だ。真っ白いTシャツが似合っている。両手には恐らく玲遠の物と思われる大きな荷物を持っていて、心底からうんざりした顔をしていた。

「お帰りなさい玲遠さん。バリ島楽しかったですか?」
「うん! お土産買ってきたよ。ハルトとチルと武志に、あと待機室にもお菓子買ってきたから置いといて」
「大河も元気そうだな。玲遠の尻に敷かれてる感じが板についてきたじゃねえか」
「冗談でしょ。先輩のことは俺が手のひらで転がしてるんで」
「なあなあハルト。今日さぁ、四人で飯行こうよ。都ノ町に鉄板焼きの美味い店があるってネットで見たんだ」
 玲遠が俺にくれた土産は、よく分からない木彫り人形の置時計だった。それをデスクの端に飾り、エクセルを保存してから椅子ごと後ろを振り返る。

「いいですね、行こうよハルト。俺も腹減った」
「やった! チル、仕事終わった? まだ残ってるやつは明日ハルトにやらせればいいよ!」
「そ、そういう訳にはいきませんよ」
「大丈夫だって。チルは仕事と俺、どっち取るわけ?」
「ええー……」

 言い合う俺と玲遠の横で、ハルトが大河の肩に腕を回して笑った。
「まあ、新婚旅行の土産話と、ついでに惚気話も聞かねえとな」
 それから、玲遠には聞こえないよう小さく囁く。
「玲遠のこと頼んだぞ。あいつを一番幸せにしてやれるのはお前だけだ。正直お前らがくっついてホッとしてるんだよ、親心としては」
「……社長も。散宙さんのこと頼みましたよ」
「うん?」
「散宙さん、俺に社長のこと相談した時ハンドルに突っ伏して泣い──」
「た、大河っ! ストップ!」
 慌てて椅子から立ち上がり、ハルトと大河の間に割って入る。

「と、取り敢えず出よう! 大河、荷物は一旦ハルトのマンションに置いてっていいよ。後で二人共家まで送るから」
「それなら今日はハルトんちに泊めてよ。チル、俺と一緒に寝よ」
「お前とチルを二人きりにさせるのは不安でならねえな……」
「だって俺達の仲だもん」
 な? と玲遠が俺の首に両腕を回し、小首を傾げて小悪魔スマイルを浮かべた。「駄目だっつうの!」慌ててハルトが俺から玲遠を引き剥がし、玲遠の首根っこを大河が掴む。
「……先輩、あんまり調子に乗ってると後で制裁ですよ」
「ご、ごめん大河。頼むからアレだけは勘弁して……」
「何だよアレって、お前ら何やってんだ」