亜利馬、格差社会に苦笑する -7-

「お、いいね亜利馬くん。もう少しお尻上げてみよう」
 床に肘と膝をついたまま背中をしならせ、腰を上げる。顔は斜め下に向けて視線は上目にカメラを見つめ、口角を少しだけ上げて笑う。シャッターが切られる度に瞬きをしたり唇を少し開いたりしながら、俺は自分の中にある「新人亜利馬」のキャラクターを体外に押し出そうと奮闘していた。
 普段の俺とのギャップを出すなら、エロい時はとことんエロくするのみだ。今日の写真撮影だってパンツは穿いてもいいと言われたけど、自分から敢えての全裸で撮ってもらうようお願いした。下半身が映らないように木下さんに気を遣わせるかなと思ったけれど、逆に木下さんは大喜びだった。「そういう前向きな提案は大歓迎だよ!」と肩を叩いてくれたのだ。

「次は仰向けになって、右脚だけ開いてみようか」
「股間写りません?」
「左手で隠してもいいよ。そのパターンと、隠さないで写らないぎりぎりのパターンと、色々撮ってみよう。えーと、誰か霧吹きお願い」
 アシスタントさんが飛んできて、俺の体にせっせと霧吹きをかける。疑似汗だ。
 その状態でマットレスに仰向けになった俺は、言われた通り右の膝を折って大きく股を開き、左手をその部分に被せた。片手で隠れてしまうのだから、我ながら情けない。
「切ない顔、目線でちょうだい」
「イッた時の顔で」
「舌出して誘ってみて」
 顔の筋肉が引きつるほど幾つもの表情を撮られ、体勢も段々きつくなってきた。その状態で今度は両脚を開くよう言われて、筋肉痛覚悟で左脚も持ち上げる。
「ああ、いいね。凄く色っぽいし顔もエッチになってきた」
「ほ、ほんとですか……」
 辛さが顔に出ているということだろうか。それがエロいと言うなら、多少は辛いままでもいいけれど……。

「お待たせ。潤歩くん、お願いします」
 ガウンを着て待たされていた潤歩が、苛々した様子で俺に舌打ちする。
「てきぱきやれや、待たせやがって」
「や、やってます! ……つもりです」
 まぁまぁと言って、木下さんが俺の横に潤歩を座らせる。ちなみに潤歩は黒のボクサーを穿いていて、そのタイミングで俺もパンツを穿かされた。木下さんの頭の中にある「潤歩と亜利馬」の構図をそのまま撮るためだ。
「じゃ、後ろから亜利馬くんを抱きしめて。二人ともキメ顔」
 座った状態で背後の潤歩に抱きしめられ、指示通りの顔でカメラを見上げる。何枚か撮られた後で今度は俺が潤歩を振り返り、少しだけ唇を合わせた。
「鼻血出すんじゃねえぞ」
 潤歩が呟き、
「そっちこそです」
 俺も生意気に言い返す。

「じゃあ次は真横から撮るよ。対面座位で亜利馬くん上乗って」
 よっせ、と腰を上げ、あぐらをかいた潤歩の上に向かい合って座る。至近距離でこの鋭い目に見られるのが苦手で、そのままつい俯いてしまった。
「じゃあ、そのまま思うようにフリーで絡んでね」
「………」
 潤歩が木下さんには聞こえないように舌打ちして、俺の背中を強く引き寄せた。
「わっ」
「いいね」
 潤歩が俺の乳首を一回舐める間に何回シャッターが切られただろう。
「オラ、もっと脚開いて座れ」
「ひゃっ、……!」
 胸に口を付けたまま突然パンツの中へ手を突っ込まれ、反射的に俺は潤歩の顔面を押し返してしまった。
「ってぇな、コラ!」
「ていうか、そんないきなりっ……やるならやるって言ってくださいよっ」
「うるせえ」
「んあぁっ──!」
 パンツの中でぎゅっと握られ、喉から悲鳴が迸る。慌てるアシスタントさん。周囲では笑い声。
「もげかけたじゃないですかっ!」
「一回もげろお前は」
 そんな姿もばっちり撮られ、またしても俺はお笑い要員としての一歩を踏み出してしまった気がした。