2人きりでの告白 -6-

「借金背負わされて働いていたそいつが、一日でも早く売り専あがれるように通いつめて、覚えてねえくらいの金も遣った。太客の一人としか見られてなくても、俺はそいつが笑うだけで満足だったよ」
「………」
「そろそろ完済できるから、もうすぐ店も辞めるからって、嬉しそうに笑ってたあいつは。……その夜、常連客の一人に騙されて、……金も通帳も全部奪われて、捨てられた」
 見開いた俺の目から大粒の涙が零れ、音もなく頬を伝って行く。それを拭うことすら出来ずに、俺はただじっとハルトの目を見つめていた。間近に見るその目も赤く、濡れていた。

「……その人は今、……どこにいるの?」
「もう、どこにもいない」
 俺の後頭部に添えられたハルトの手が震えているのに気付く。

「………」
「……今のお前と同じ齢の奴だった」
 やりきれなくて──俺は唇を強く噛み、目を伏せた。

「だから俺はこの仕事を始めた。腹括って稼ごうとしてる奴がいるなら、俺がその場を提供する。安全に稼げる場所を作って、何が何でも俺が守る。この仕事に後ろめたさなんか感じる必要はねえ。俺はあいつのためにもブレイズのボーイ達を守り続けなきゃならねえんだ」
「……ハルト」
「ついて来てくれるか。チル」
「……、……」

 俺達は互いに鼻を啜りながら抱き合い、何度も触れるだけのキスを繰り返した。その優しい唇に、ハルトの痛みが伝わってくる。いつも笑って冗談を飛ばしていたハルトの一番辛く悲しい部分が、キスを通して俺の中へと浸透してくる。
 切ないほどに好きだった。その時のハルトも、今の俺も。
 好きで堪らない。過去の傷も、今現在の信念も。
 ハルトと一緒に、その全てを受け止めたい──。

「傷付けて悪かった。……俺の中でもまだくすぶってたことだから、ちゃんと整理が出来るまで誰とも付き合わねえつもりでいたんだ」
「分かってる。分かってるから、……ハルト。もう言わなくていい、から……」
「言わせてくれ。チル──俺は一番初めから、お前の中にあいつを見ていたよ」
「………」
「無知で世間知らずで、その癖に度胸だけはあって、それに……素直で」
 笑いながら大きく溜息をついて、ハルトが俺の顔を自身の胸に埋めた。

「だけど、あいつとお前は違う。あいつはあいつなりに真剣だったし、お前はお前のやり方で必死に自分の今を生きている。……そんな当たり前のことに、お前を泣かせて初めて気が付いた」
 優しく、俺を落ち着かせるように。何度も頭をぽんぽんと撫でられ、背中を摩られ、その温もりの中に包み込まれる。俺はハルトのシャツを掴み、じっとその告白を聞いていた。
「こんな俺だけど、……お前を愛してもいいか」
「………」
 もう泣く必要なんて一つもないのに。それでもなお俺の目頭は熱くなる。鼻と喉の奥がきゅっとして、噛みしめた唇の隙間に涙の味が広がってしまう。

「……だ、大丈夫か?」
 返事がないことで不安になったのか、ハルトが俺の両肩に手を置いて自分の胸元から引き剥がした。
「大丈夫。……あ、あの……ハルト」
「うん?」
「車。停めに行かないと」
「あっ、忘れてた」
 路駐状態の車の中で抱き合いキスをし泣いてしまったことが、今更のように恥ずかしくなる。見れば会社帰りの人達が男女問わず横の歩道を歩いていて、当然中には車内の俺達に遠慮がちな視線を向けている人もいた。

「俺もハルトが好きだよ」
「……ありがとな、チル」
 俺はハルトと同じように赤面し、だけどどこかくすぐったい気持ちに胸を高鳴らせながらアクセルを踏み込んだ。