亜利馬、格差社会に苦笑する -6-

 右からバン、バン、バン、ときて、ヒョコッ。そしてまた、バン。
 ブレイズメンバーの立ち位置はもうそんな感じで決まってしまっている。ポスターを見るたびに遣る瀬無くなるけど、どう足掻いても身長は伸びないのだから仕方ない。
「別にいいじゃん。一人くらい背が低くっても。男は愛嬌、愛嬌」
 独り言のように呟き、会議室のドアを開けた。今日はここで獅琉と待ち合わせだ。午前中にお互い撮影が入っていて、終わってから買い物をして帰ることになっている。
「そうだ、こないだの動画の続きが確かもうアップされたって……」
 取り出したスマホでインヘルのサイトを見ようとしたその時、ドアが開いて山野さんが入ってきた。
「あ、お疲れ様です」
「亜利馬か。バドミントン動画の後半が公開になったぞ」
「はい。今から見ようと思ってて」
 すると山野さんがテーブルにパソコンを置き、既に再生待ちになっていた動画を俺に見せてくれた。
「た、楽しみ……でも緊張」

『獅琉様の痺れるような甘い声を毎晩イヤホンで聞いています。ぜひ添い寝動画を出して欲しいです。有料でも買います』
『ブレイズのヌード写真集とかは出さないの? 皆カッコ良いんだから絶対売れると思う。亜利馬は、まぁ、……カッコいいより可愛い系っていうのかね』
『この新人くんは何でブレイズに入ったのかな』
「………」
 数々のコメントを目にしながら、俺は格差社会の厳しさをしみじみと感じていた。
「そんなに落ち込むな。お前のファンだってちゃんといる」
「山野さん。俺って本当に、ブレイズにいてもいいんですかね。だって俺より人気のモデルさんはいっぱいいるのに、どうして俺が……」
 俺の正面でブラックの缶コーヒーに口を付けていた山野さんが、それをテーブルに置いて言った。
「お前に、光るものを感じたからだ」
「え?」
「情けない姿を晒そうが、背が低かろうが、バラエティ要員だろうが、本番の撮影になるとお前は誰よりも素直に体を開く。扱いやすいという意味ではないぞ」
「そ、そうですか? 俺、自分じゃ全然……」
「見ている側にはそう伝わる。普段の子供っぽさが印象にある分、本番でのエロさが際立つんだ。そこに惚れ込むファンはこれからどんどん増えて行くだろう。口には出していないが、二階堂さんも今井さんもお前のそんな部分に期待している」

 ……知らなかったし、考えたこともなかった。
 ポカンと口を開けた俺に向かって、山野さんが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「いわゆる、ギャップ萌えというやつだな。……若い奴らの言葉はあまり使いたくないが」
「……ギャップ」
 それの活用法はまだよく分からないけれど、少しでも道が見えれば俺も自信が持てるようになるだろうか。
「お前もブレイズも、まだ始まったばかりだろう。これからどうにでもなる。自信を持て」
 山野さんがパソコンを閉じ、脇に抱えて会議室のドアへと向かう。
「そういえば亜利馬、動画班がこれからも定期的に撮りたいと言っていたぞ。お前がメインのシリーズも考えているそうだ」
「え? そ、それって……」
「『ギャップ』を見せるチャンスだな。どう利用するかはお前次第だ」

 ドアが閉まって一人になってからも、俺はしばらく自分の在り方について考えていた。
 まだデビューしたてでよく知られていないうちに考えないといけないことだ。別にバラエティ要員が嫌なわけじゃない。ただ俺が普段の俺でいることで、またそれを見られることで、ブレイズの価値を下げてしまうのでは──そう思うと、怖かった。