2人きりでの告白

 月明かりもネオンも届かない事務所の中。

 今日何本目かの泊まりの予約をもらって、俺は受話器を元に戻した。安堵の息をついてから、さっそく隣の部屋に待機しているシュウヤにそれを伝える。
「シュウヤ、十一時から泊まりで予約入ったよ。行ける?」
 ややあって事務所のドアが開きシュウヤが顔を覗かせた。現役の大学生で、滅多にこちらで待機することはないボーイだ。
「十一時から、了解です」
 端整な顔を崩して笑うシュウヤは、来年の春にイギリス留学をするためここで働いている。ボーイ歴はそれほど浅くないが、学校と勉強の合間に時間が空いた時限定で出勤するから、そこまで頻繁に予約が入ることのないボーイだった。

「まだ時間あるから、部屋でゆっくりしてていいよ」
「チルさん、俺が滅多に入らないからわざわざ大口の予約入れてくれたんでしょ。すごい助かります、ありがとうございます」
「そんな大袈裟に考えなくていいって。今日のはウチの常連さんだから心配ないと思うけど、ちゃんと睡眠取らせてもらうんだよ。ただでさえシュウヤは勉強で寝不足っぽいのに、……」
「大丈夫です、分かってますよ」
 シュウヤが待機室に戻った後、俺の横で武志さんが「すっかりお母さんだね」と言って笑った。

「皆、チル君のこと信頼してる。自宅待機の多かったボーイがチル君とゲームしたいからって、待機室来るようになったでしょ」
「ゲ、ゲームはちゃんと、休憩中で終わらせてますよっ」
「俺と社長はそういうのしてあげられないから、助かってるんだよ。初めは正直言って、ボーイと齢の近いチル君が上手くやってけるかなって心配だったけどね」
 俺は照れ臭くなって苦笑し、パソコン画面に向き直った。

 最近始めた、比較的安い料金で食事のみを楽しむ「ランチ・ディナープラン」も少しずつ予約が入っている。性行為なしでも恋人気分を味わいたいという客は、想像しているよりも多いのだ。
 仕事はセックスだけじゃない。これは、客側の人達から教わったことだった。

「今日の玲遠の予約、ちょっとここからだと遠いホテルなんだ。チル君、運転頼める?」
「分かりました、何時からでしたっけ」
「十時だからもう少しだね。悪いね、今日は社長が出掛けてるから」
「……ハルト、どこ行ってるんですか?」
「新しい個室を増やすから、それの部屋見に行ったよ。知り合いの不動産屋がいい物件紹介してくれるんだって。急な話だったからこんな時間になっちゃったけど」
「ハルトの人脈って半端じゃないですよね。警察とか弁護士とか……」
「社長はそれを一番大事にしてるからね。この世に確かな人脈ほど役に立つものはないって、いつも俺に言ってるよ」
 ハルトらしいと思ったが、今は素直に笑えなかった。

「じゃ、そろそろ玲遠に声かけておこうか」
 武志さんがインターホンの受話器を上げ、玲遠に出発十分前ということを知らせる。俺はその間に事務所を出てエレベーターに乗り、ビル近くの駐車場へ行ってキーロックを解除した。