それぞれの想い -6-

「昔な。まだ二十二、三歳くらいの頃、たまたまクラブで知り合った男に惚れて、……後々そいつから売り専やってるって聞かされた」
 ハルトが語り始める。
「俺はそいつの借金が少しでも早く終わるように、毎日のように通ってたよ。そいつが仕事で他の男と寝るのも我慢した。向こうは気付いてなかったけどな。俺は最後まで、常連客の一人としか見られてなかった」
「その人とは付き合えなかったの?」
「ああ。いずれ気持ちは伝えるつもりだったが、結局言えなかったな」
 当時を懐かしく思っているのだろうか。ハルトの目はどこか切なげで、今でもそのボーイへの気持ちを募らせているようで、……とても見ていられなかった。

「ごめん。俺……ハルトを苦しませるつもりじゃなかった。分かってるんだ、……本当にごめん」
「どうして謝る? 何も悪いことなんかしてないだろ」
「してるよ。だって俺、……無理言ってハルトに抱いてもらった」
「そんなことはねえって」
「でもハルトはあの時、俺が好きだから抱いた訳じゃないだろ」
「………」
 沈黙はきっと肯定を意味している。

「俺は田舎者だし、ハルトから見ればガキだし、恋愛の経験も全然なくて……。ましてや、男同士でのそういうのって、一回もなかったし……。抱かれたからって恋人になったとまでは思わないけど、……それでもあんな経験したら、ちょっとは好きになっちゃう訳で」
 喋れば喋るほど喉の奥が詰まって、苦しくて、段々と声が掠れてしまう。ハルトは辛そうな表情でそんな俺を見つめていた。
「チル、お前は」
「………」
「俺のことが好きで、あんなこと言ったのか?」

 この仕事に引き入れた責任を取れなんて言いながら、本当はハルトに抱いてもらいたくて仕方がなかった、あの時の俺。精一杯の勇気が功をなしたのに、どうしてそこで満足できなかったんだろう。
 ハルトにこんなこと言ったって、困らせるだけなのに。

「チル」
 俺の名前を呼んだハルトの目は、これまでにないほど真剣だった。
「今のお前はまだ子供で、恋愛の経験も少ないって言うなら」
「………」
「俺への気持ちは、恐らく今だけの錯覚だ」
「え、……」
「俺は一時の気の迷いで、お前を後悔させたくない」
「………」

 俺は拳を握り、床の一点を見つめて呟いた。
「何だよそれ。……素直にフッてくれた方が、まだましだ。嫌いだって言われたほうが、よっぽど救われる」
「そうかもな」
「ハルトは優しいけど、俺に言ったそれは優しさじゃない」
「……かもな」
 あくまでも俺を傷付けようとしないハルトの目からは鋭さが消え、代わりに寂しそうな色に揺らいでいる。
 恐らく俺の気持ちの半分も、ハルトには伝わっていない。
「……ごめん」
 これ以上そんな目を見ていたくなくて、俺は俯いたまま自分のデスクに戻り、仕事の続きを始めた。