世話焼きボーイ -8-

 ハルトのぼやきを聞きながら、俺は箸を咥えてじっとテーブルの一点を見つめた。
 このふつふつと込み上げてくる嬉しい気持ちは、一体胸のどこからくるんだろう。ハルトと玲遠が本当は何も無かったと知って、物凄くホッとしている自分がいる。
 ハルトのことは好きだし、今では玲遠のことも好きだ。だけどこの「好き」の意味が微妙に違っていると気付いたのは、この時だった。

「あのさ、ハルト」
「ん?」
 多分、嬉しくて舞い上がっていたんだと思う。だから後先考えずにこんなことを言ってしまったんだ。
「……セックスの相手がボーイじゃなくて俺だったら、違反にはならない?」
 白身のフライを箸で持ち上げたまま、ハルトの動きが停止する。
「じ、自家発電するくらいなら手伝うけど。世話になってる訳だし」
「チル、……お前な。負い目があってそんなこと言ってんなら──」
「負い目なんかで言ってるんじゃないよ。単純にそう思っただけ」

 玲遠が言っていた。
 セックスすれば、この仕事について分かることもある。
 俺は分かりたかった。玲遠の気持ち、大河の理由、ハルトの考え。従業員としてでなく一人の男として、少しでもいいから彼らに近付いてみたかった。
 そのためにハルトを利用しようと思っている訳じゃない。
 俺は、ハルトに頼みたいんだ。

「簡単にそんなこと言うモンじゃねえよ」
 箸を持つ手を再開させ、ハルトがフライにがっつく。
「か、簡単に言ってない。俺は──」
「生憎だけど、自家発電してるのは別に相手に困ってるからじゃねえ。ただ暇がないってだけだ」
「………」
 分かってるよ、そんなこと。ハルトくらい見た目も中身も男前な社長なら、黙っていても相手が寄ってくる。元々俺なんかじゃ釣り合わないのは分かってるし、ハルトが俺を必要としていないことも分かってる。
 玲遠の言葉を借りれば、ハルトは俺を「対象として見ていない」のだから。
「……ご、ごめん変なこと言って。どうかしてるんだ俺、忘れてくれ」
 急に自分の身の程知らずさが恥ずかしくなって、俺は空になった容器と割り箸をまとめて立ち上がった。
「おい、チル」
「ハルト疲れてるだろ。風呂沸かしてくるよ」
 逃げるようにしてリビングを出て、脱衣所へ向かう。顔が熱くて心臓は破裂しそうだった。

 何であんなこと言っちゃったんだろう。ハルトはただの好意で世話してくれているだけなのに、どうしてあそこまで調子に乗っちゃったんだろう。
 恥ずかしい。まさに童貞丸出し思考だ。
「………」
 湯張りのスイッチを入れ、バスタブにお湯が吐き出されて行くのをじっと見つめる。リビングに戻ることが出来ず、俺はその場に立ち尽くしていつまでもそれを見つめていた。
「チル」