亜利馬、格差社会に苦笑する -4-

「じゃあ、俺から行くね。……えーと、可愛い子!」
 獅琉がラケットを構え、シャトルめがけて振り上げる。
 のんびりとした勢いで飛んできたそれが、大雅の頭上に落ちてきた。
「優しいひと」
 言いながらそれを打ち返す大雅。やっぱり、やれば出来るんだ。
「エロい奴!」
 潤歩が勢いをつけて打ち返してきた。
「素直な奴かな、やっぱ」
 竜介が笑いながらシャトルを返す。
「そんじゃ、世話しがいのある子!」
 再び獅琉がそれを打ち、今度は俺の方へシャトルが飛んできた。
 ラケットを振り被って、思い切りそれを打ち返す──
「テクニシャンッ!」
 咄嗟に出てしまった言葉はともかくとして、ちゃんとシャトルを打つことができた。「いいぞ亜利馬!」竜介もガッツポーズを送ってくれている。
「やるなガキめ。──従順な奴!」
「……背が高いひと」
「頑張り屋な子!」
「何でもよく食べる奴だな!」
「喰らえ亜利馬! ──尺八上手ッ!」
「え、えーと、ええと……!」
 ぎゅんぎゅんと勢いよくシャトルが迫ってくる。俺は自棄になって目を瞑り、力の限りそれを打ち返した。
「……ちっ、ちんこがデカい!」
 ガットにシャトルが当たった感触。──やった、またちゃんと打てた!
「………」
「………」
 打った直後の恰好のままで停止し、沈黙に恐々目を開ける──と、四人全員とケンさん、それから山野さんまでが茫然と俺を見ていた。
「それって、潤歩のこと」
 大雅がボソッと呟き、見れば潤歩の顔が真っ赤になっていた。足元には俺が打ち返したシャトルが転がっている。
「いやぁ、思い切った告白だな、亜利馬!」
「ち、ち、違いますっ! 何言ってんですか竜介さん!」
「亜利馬、照れてる。咄嗟に出ちゃったんだもん、仕方ないよね」
「獅琉さんまでっ……違いますってば! ──う、潤歩さん。違います。違いますからね!」
 慌てて叫ぶ俺を見て、潤歩がハッとしたように目を見開いた。
「ば、馬鹿言ってんじゃねえ! んなこと分かってるっつうの!」
 結局俺達チームの勝利となったが、非常に恥ずかしい思いをする結果になってしまった。

 *

 数日後。編集を終えてアップロードされたその動画には、投稿早々コメントがたくさん付いた。
『面白い。こういうのも見てみたかった』
『ブレイズ最高。今後のDVDも全部買います』
『仲の良い雰囲気が伝わってきます。第二弾待ってます』
 という嬉しいメッセージがある中で、贔屓にしているモデルへの熱烈なラブコールがあり、ちょっと過激なエロコメントがあり、そして……
『亜利馬www』
『あのエロい亜利馬くんがこんなキャラだったとは。ちょっと意外でした』
『新人くんはお笑い要員かな?(笑)』
「………」
 俺は獅琉の部屋のソファに座ったまま、スマホを手にただ茫然としていた。
「亜利馬、大丈夫? 目が死んでるよ」
 Tシャツとパンツ姿の獅琉がヨーグルトの皿を手に寝室から出てきて、ついその芸術的な白い生足を見つめてしまう。俺もこんなに綺麗で背が高かったら、獅琉や大雅みたく男の色気というものが出せていただろうか。
「ちんちくりんの、おチビちゃん……」
「え? そんな風に書き込まれてた? 可愛いじゃん、俺そういう子好きだよ」
 男前の余裕発言だ。実際自分がそうだったら、そんなことも言っていられなくなる。

「はぁぁ。今からでも背って伸びるんですかね……」
「亜利馬」
 ソファの横に座った獅琉が、俺の頬にキスをした。
「みんな違うから、俺達ここに集まってんだよ。俺達だって、他のモデルだって、自分に対するコンプレックスなんて幾らでも持ってる。大なり小なりね」
「……獅琉さんにもコンプレックスが?」
「うん。俺の場合は肌が激ヨワでさ。この仕事ってシャワー浴びて体洗う機会多いから、結構ダメージ喰らうんだよね。ケアも面倒だけどサボるとすぐ肌荒れするし、敏感肌に、っていう女性用の化粧水とか買うのもちょっと恥ずかしいし。後は日焼けも絶対できないしね」
 獅琉が照れ臭そうに言って、ヨーグルトのスプーンを咥えた。そういえばたまに獅琉がスキンケアをしている場面を目にしていたけど、美しさを保つためにやっていることだと思っていた。だって実際、獅琉の肌は綺麗で美しい。
「………」
 それでも本人は、大変な思いをしていたのか。