世話焼きボーイ -2-

「えっと、……アイス一個余ってるけど。これはトオルだっけ?」
「いえ、俺は何も……」
「いいから貰っとけよ。ハルトの奢りなんだから、遠慮することない、ない」
 玲遠が言うも、トオルは赤面しながら「いや、でも」と口籠るばかりだ。
「要らないなら俺が食うよ」
「玲遠さん、五時から仕事でしょ。アイス二個も食べたらお腹壊すから駄目です」
 俺の言葉に、ムカつく、とむくれる玲遠。まるで母親になった気分だった。
「トオル、食っとけ」
「貰えるモンは貰っとけ」
「わ、分かりました。ありがとうございます」
 他のボーイに促されて、ようやくトオルが俺からアイスを受け取った。

「チル!」
 玲遠に呼ばれ、顔を上げる。
「俺のアイス、蓋開けてスプーン剥いて突っ込んで食える状態にしといて。いま手離せないから、ついでにトオルのも」
「しょうがないな……」
 相変わらず高飛車で生意気だが、玲遠は意外と面倒見が良い。トオルが新人で入ってきた日、待機室で一番に声をかけてやっていたのも玲遠だった。玲遠が構えば、他の皆も自然とそれに乗ってくる。結果、このように喧しい「修学旅行の夜」みたいな雰囲気になるのだが──それでもギスギスした空気になるよりは断然ましだ。

 大河も初めての頃は、玲遠に教えてもらっていたと言っていたっけ。
 今日はその大河はここにいない。午後一時の開始早々に予約が入って、ここから一番近い個室で仕事をし、終わった頃にもう一本入った次の予約のために今度は駅裏のホテルに行っているからだ。
「ああ、やばい。近付かれ過ぎだ、玲遠!」
「分かってるっての。焦らすな」
 皆が興じているそれは、ゾンビのような敵を銃やナイフで倒すだけの、ただただグロテスクな、だけど派手でリアルで男心をくすぐるゲームだ。俺は早く事務所に戻らないとと思いながらも画面から目が離せなくて、皆より少し後ろからそれを眺めた。
 ──楽しそうだな。
「玲遠、リロード遅すぎ。回復も無駄にしすぎ」
「うるせーなあ、もう」
 このままではキリがないと思った俺はそっと踵を返し、出口へ向かった。

「あ、チル」
 ドアを閉める前に俺を呼んだのは、コントローラーを他のボーイに押し付けた玲遠だ。
「何ですか?」
「アイスありがと。一口食う?」
「えっ、あ……いや、大丈夫です」
 まさか玲遠に礼を言われると思っていなかったから、その一言は俺にとって相当な衝撃だった。続いて、他のボーイ達までもが口々に礼の言葉を俺に浴びせる。妙に気恥ずかしいが、ほんの少し受け入れてもらえたような気がして嬉しかった。

「なあ、チルはゲーム得意じゃないの」
「そんなに得意じゃないです。特にそういうアクション系は……」
「じゃあさ、今度暇な時に一緒にやろうよ。俺が教えてやるから」
 にんまりと笑ってスプーンを咥える玲遠は、ムスッとしている時よりもずっと可愛かった。ようやく玲遠の仲に「年下らしさ」を見いだせた気がする。

「玲遠の教え方じゃ、チルも一生覚えらんないよ~」
 テレビの前で誰かが言い、続いて笑い声が起きた。
「うるさいよユタカ! お前もう客来る時間だろ、何のんびり食ってんだよ」
 顔を赤くして唾を飛ばす玲遠が面白可愛くて、俺もつい噴き出してしまう。案の定玲遠に睨まれたが、何とか誤魔化して待機室に玲遠を戻した。