亜利馬、格差社会に苦笑する -2-

「行くよ!」
 左手に持ったシャトルを、右手で持ったラケットで下から打つ。ただそれだけなのに、タイミングが合わず一回目のサーブは空振りしてしまった。
「ごめん、もう一回。行くよ!」
 また空振りだ。もう一度打つと今度は当たったものの全く飛ばず、シャトルは俺の僅か一メートル先の芝の上に落ちた。
「………」
「ご、ごめん。何でだろ、おかしいな」
 大雅の冷ややかな視線を受けながら、もう一度ラケットを振り上げる。
「ま、また空振り」
「……亜利馬。俺が先に打つから」
「ごめん、お願いします」
 仕方なくサーブ権を大雅に譲り、俺は飛んでくるシャトルに備えラケットを構えた。
「行くよ」
「こい!」
 大雅がシャトルを頭上に投げる。
「あ……」
 そして、完璧なフォームで振り上げたラケットを、シャトルめがけて振り下ろし──空振りした。
「………」
「………」
 悲しくなって、俺達は芝の上に立ち尽くしたまま俯き沈黙した。

「……フリスビーにする」
「そ、そうだね。それなら確実に投げられるし」
 ラケットとシャトルを元に戻して蛍光グリーンのフリスビーを取ると、ケンさんに「お互いの顔に当たらないように気を付けてね」と苦笑された。一連の流れを見られていたと思うと恥ずかしくて、つい笑って誤魔化してしまう。
 見れば潤歩と竜介のキャッチボール組は投げるのも受けるのも上手く、互いにコントロールも完璧で流石に絵になっていた。使っているのはカラーボールだけど、二人ともキャッチしてから投げるまでの流れが速すぎて、まるでスポーツ部が本当に特訓しているみたいだ。
「捕んなコラ! 顔面で受けろ!」
「ははっ、潤歩もな!」
 ……ぶつける勢いで投げてるのか。
 ちなみに獅琉はその間ずっと、真剣な顔で山野さんからの指示を聞いていた。

「上手く投げれるかなぁ」
「亜利馬。俺が先に投げるから、キャッチして」
「うん、分かった。人が通った時とかは気を付けてね」
 念のためにうんと距離を取り、「いつでもいいよ!」と手を振って合図する。
 大雅がフリスビーを投げた。俺は綺麗なラインを描いてこちらへ飛んでくるそれを上手くキャッチしようとして、落下地点を予想しながら両手をあげ、あたふたと動き回る。回転する円盤を素手で捕るというのは、思った以上に難しい。
「オーライ、オーライ」
 掛け声が合っているか分からないけど、この辺りまで下がっていれば何とかキャッチできそうだ。
「ゲット!」
 予想通りに落下してきたフリスビーが、見事に──額に当たった。
「いだあぁっ!」
「……亜利馬。大丈夫?」
 声はかけてくれたが決して様子を見に来ようとしない大雅に向かって、俺は涙目で親指をたてる。
「だ、大丈夫。じゃあ今度は俺が投げるよ!」
「ここに向かって投げてよ。動きたくないから」
「わがままだなぁ、もう……」
 始めこそ上手く行かなかったが根気よく続ければ慣れるもので、俺も大雅も三十分ほどで何とかフリスビーをキャッチできるようになっていた。上手くいくほど俄然面白くなってきて、近距離で投げてもらってダッシュでそれを追いかけたり、捕る時にわざとスライディングしたりと、俺は芝まみれになって子供みたいに遊んだ。

「調子どうですか、大雅に亜利馬」
 マイクを持った獅琉がニコニコ顔でやってきて、大雅にマイクを近付ける。
「結構順調」
「始め、二人とも全然キャッチできてなかったね」
「上手くなった。……見てて」
 大雅がフリスビーを投げ、反射的にそれを追いかける俺に言った。
「亜利馬、キャッチ」
「ワオーン!」
 これじゃあまるで、飼い主とその犬だ。