第1日目の災難 -4-

「あの、佐倉ハルトさんですか」
「ん。君は、面接の子だっけ」
「そうです、よろしくお願いします。あの、これ履歴書です」
 封筒に入れておいた履歴書を取り出し、手を伸ばしてそれを渡す。
「……柳瀬、……サンチュウ」
「チヒロって読みます。柳瀬散宙……。どうぞよろしくお願いします」
 一体、何歳なのだろう。見た目は二十代後半といったところだが、社長と言うからもっと齢のいった、自分の父親くらいの男だと思っていた。それとも、これも都会では常識なのだろうか?

「よろしく、散宙。突っ立ってないでこっち来いよ」
 怖々一歩だけ近付くと、椅子から立ち上がった佐倉ハルトが俺に右手を差し出してきた。握手を求めているのだと思い、素直にその手を握り返す。
 瞬間。
「わっ、……」
 掴んだ手が引き寄せられ、まるで荷物を担ぐように軽々と抱き上げられた。
 誰かに抱き上げられるのなんていつぶりだろう。いや、もしかしたら初めてのことかもしれない。
「軽いな、お前。飯食ってるか? そんなんじゃ体力もたねえぞ」
「な、何すんですか。下ろしてくださいっ」
「そうか」
 ベッドに下ろされたはいいが、訳が分からない。佐倉ハルトはキャスター付きの椅子に腰を下ろし、俺と向き合いながら腕組みをしている。
「ここまで無事だったか? 驚いただろ、変な店いっぱいあって」
「でも、親切な人が道案内してくれたので何とか……」
「そうか、良かったな。それでいつからでも働けるんだっけ?」
「はい、いつでも大丈夫です。明日からでも」
 俺はベッドの上で姿勢を正し、目の前の男の顔を真っ直ぐに見つめた。

「さっき持った感じだとだいぶ軽かったけど、体重いくつだ?」
「ええと、五十四キロくらい……かな。身長は一六五です」
「まあ、標準って言えば標準か。でもそれって中学生の平均数値並みだぞ」
「じゃあ標準じゃないですね。俺こう見えて、もう二十歳超えてるし……」
 恥ずかしくなって頭をかくと、佐倉ハルトが大丈夫、と手を振って笑った。そして──
「それじゃ、取り敢えず服脱いでみろ」
「えっ?」
 唐突に言われて混乱する。
 服を脱ぐって、ここで裸になれということか。何の意味があるのだろう。もしかして、仕事とは相当な肉体労働なのか。だから先ほどから俺の重さを気にしているのだろうか……

「大丈夫か?」
「あ、……はい」
 考えていても仕方がないということで、俺は潔く着ていたシャツを脱いだ。散々歩いたせいか汗臭い。なるべく気付かれないよう、適当に畳んでベッドの下へと置く。
「ズボンも」
「え、下もですか? どうして……」
「どうしてって。一応な」
 よく分からないが、そう言うからにはそうなのだろう。別に見られても男同士だ、どうということはない。
 エアコンが効いているせいか下着一枚だと流石に寒くて、俺はその場で小さく身震いした。佐倉ハルトは黙って俺の体を見ている。後ろを向けと言われてその通りにし、少ししてからまた正面を向かされ、言われた。

「呆れるくらいの標準体型だな。痩せ過ぎ、太り過ぎよりは全然いいが」
 褒められているのか貶されているのか分からず、仕方なく愛想笑いを浮かべる。
「今まではどんなバイトしてた?」
「地元の蕎麦屋と、居酒屋……とかです」
「いいな、その『普通っぽさ』は武器になる。それじゃ最後に、パンツも脱げ」
「……え? パンツって、下着ってことですか。全裸になれってことですか」
「ああ」
 平然と頷く彼に、何だかとてつもなく大きな不安がこみ上げてきた。いくら肉体労働の仕事でも、流石に全裸姿を見る必要なんてないはずだ。そもそも面接で服を脱がされるなどといった話も聞いたことがない。
「すみません、質問いいですか。仕事ってどういう……」
 言いかけたその時、ふいにインターホンの呼び鈴が鳴った。