第3話 日、月、暇なし -11-

「子供達が勉強する場所で……こういうこと、するなって」
「背徳的で堪らねえか」
「そんなこと言ってないっ、……」
 蒼汰が俺の後頭部に片手を添え、引き寄せた。

「あ、う……」
 唇が塞がれるよりも先に舌が触れる。有無を言わさず絡めとられた俺の舌が、蒼汰の唇によって激しく吸われる。背中を反らせて逃げようとすれば、蒼汰が上体を曲げて俺を追う。
 駄目だと頭で分かっているのに。体の力が抜けて、拒むことができなかった。

「ん、……ん、ぅ」
 そうしているうちに、蒼汰の膝が俺の脚の間へと入ってきた。軽く刺激されて声が洩れ、腰の一点がむずむずして震えてしまう。
「や、あ……。やめろ、あっ、……」
 ぐいぐいと押し付けられる膝頭。あの夜はもっと際どいことをされたのに、ここが教室だと思うと恥ずかしさに体中が熱くなった。その熱が期待なのか不安なのか分からない。ただもう何も考えられなくなって、本能を揺さぶる刺激に涙を滲ませるだけだ。

「……はぁ」
 俺の口から舌を抜いた蒼汰が、俺の頭を胸に抱いて溜息をつく。
「流石にこれ以上は時間的に無理か。失敗した」
「………」
「また秘密が増えたな」
 何だか翻弄されている気分だった。繰り返し緊張と緩和が与えられているような感覚に、気持ちが追い付いていかない。
 俺は俯き、脚立を奥の事務室へ運ぼうとしている蒼汰の背中に質問した。
「……何であんたは、俺に拘るんだ?」
「翼に興味があるから」
「………」

 脚立を戻した蒼汰が戻ってきて、下を向いたままの俺の肩に手を置いた。
「お前みたいな奴、今まで一人も周りにいなかったからな。純粋に知りたいんだ、翼がどんな奴なのかって」
 何と反応したら良いのか分からないが、肩に置かれた蒼汰の手はどっしりと重い。まるで体が地面に埋まってしまいそうだ。
「翼も俺を見定めてる最中だろ。でも完全に俺を拒まないってことは、少なくとも悪い感情は持ってねえ訳だ。俺ら互いに探ってる状態で、そこから何かが始まるってこと」

 何を根拠に言っているのだろう。どうしてそんなに自信があるんだろう。俺は狭い脳内に疑問符をまき散らしながら、不敵な笑みを浮かべる蒼汰の顔をただ茫然と見つめ続けた。
「そう固く考えずに。気楽に付き合って行こうぜ、翼くん。それから今日のバイト代な、武虎にお菓子でも買ってやれ」
 俺の手のひらに、五百円硬貨が落とされた。グッズを買った時の釣り銭だ。
「そうだ。翼くんも金曜日の教室に参加しないか。武虎がお菓子作るの上手いって言ってたから、子供らに何か作ってきてほしいんだけど。これ、一応当日のスケジュール。生徒の人数とかも書いてあるから」
 棚の上にあったプリント用紙を差し出す蒼汰は、友達に軽い頼み事をするような笑顔を浮かべている。自信に満ちた笑顔だ。こちらが断るなんて微塵も想像していない顔だ。

 やるしかないんだろな、と思う。決意というよりは、諦めに近い。
 蒼汰の頭上、天井からぶらさがったカボチャもまた笑っていた。