#10 みんなのハッピーなまいにち

「炎樽。ほ、た、る」
「ほた、うー」
「天和だ。たかとも」
「たーとも」
 何度見ても自然と目尻が下がってしまう。

 薄ピンク色のくるくる毛、もちもちの真っ白な肌。ほっぺはリンゴ色で、大きな目は澄んだブルー。
 場所はサバラの部屋。俺はベビー用のベッドチェアで目をぱちくりさせている産まれたての夢魔の男の子を前に、今日何度目かの溜息をついた。
「本当に可愛い……何なんだこの可愛さ。ずっと見てても飽きない……」
「ちょっと抱いてやるか」
「天和、気を付けろよ。そっとだぞ、そっと」
 少し触っただけでも壊れてしまいそうな小ささだ。マカロの赤ちゃんは天和の胸に頭を預けて親指をしゃぶりながら、時折「たーとも」と声に出して確認している。産まれたてでも夢魔特有の嗅覚で、自分を抱くのが誰であるか判別しているらしい。

「お、俺にも抱っこさせてくれよ! 俺の匂い覚えさせたい!」
「さっき散々抱いてただろうが。今は俺の番だ」
「うう、ずるい……」
 そんな俺達を後ろのソファから眺めていたマカロが、苦笑して「いつでも抱いてやってよ」と声をかけてきた。その太股を膝枕に使って寝ているのは、慣れないイクメン作業に疲れ果てているサバラだ。

「夢魔の成長は超スピードなんだろ。こんなに可愛いのは今だけってことじゃないか!」
「それより名前、決まったのか?」
「うん。サバラと相談して決めた。タルトっていうんだ。明日の学園祭で食べるエッグタルトが楽しみ過ぎて、先に子供に名付けちゃった」
「タルトおぉ……お前の名前、タルトっていうんだってさあぁ……」
「たーと」
 俺は天和の腕に抱かれたマカロの赤ちゃん──タルトを覗き込みながら、そのぷにぷにのほっぺたを指でつついた。

「またー」
「ママ?」
「ううん、俺のこと。サバラのことは『さたー』だよ。お腹空いたのかも」
「お、俺がミルクあげたい!」
 可愛いクマの絵が付いた哺乳瓶を手に、俺はまたしても溜息をついた。
 赤ちゃんの可愛さは人間も動物も夢魔も同じだ。何をしていても可愛くて、ただそこにいるだけでこちらまで幸せな気持ちになれる。
 俺と天和には逆立ちしても子供は作れないから、こうしてマカロとサバラの間に赤ん坊が産まれるなんて本当に素晴らしいことだと思った。

 俺の母さんもパートナーと二人だけでは俺を授かることはできなかった。ゲイの息子のために六十歳の母親が代理出産をしたという海外のニュースも見たことがある。
 生命の問題なんてこれまで考えたこともなかったけれど、今は思わずにいられない。

 どうかこの子にたくさんの幸せがありますように。
 俺は一生懸命に哺乳瓶を吸うタルトを見て、心からそう願っていた。