#8 男子高校生の夏休み -5-

「夢魔の世界って、平和なのか?」
 ぼんやりとそんな質問をすると、サバラがトンネルに手を突っ込みながら「どうかな」と答えた。
「それなりに事件は起きるし、それなりに賑わってる。孤児の教育をする場所もある。俺達の住む獄界は文明も発達しているが、田舎の方はまだ貧しい暮らしをしているのもいる」
「あんまり変わらないんだな、こっちと」

 サバラが苦笑し、開通したトンネルからゆっくりと手を抜く。
「炎樽くんが夢魔の世界に来たら、一分と持たずに喰われてしまうだろうね」
「えぇっ」
「俺達にとっては普通でも、人間が生きて行けるような場所じゃない。……まぁ、俺やマカロの護衛付きなら炎樽くんも観光くらいはできるかもしれないが」
「……え、遠慮しとく」
 強烈な陽射しの下で鳥肌を立てながら、俺は思わず膝を抱えた。
 それから泳ぎ疲れた天和が浜辺で肌を焼きながら昼寝をし、まだ体力が有り余っているマカロが砂浜の城作りに参加し、完成してからサバラに浮き輪を装着させ、沖の方から俺達の城を眺めた。
 波に委ねて揺れながら、俺は頭上の太陽を見上げた。

 何の変哲もない夏休み。だけどそれが楽しくて堪らない――。

 *

「あー、焼き過ぎた。体痛てぇ」
「天和、背中真っ赤だぞ。見てるだけで痛くなってくる」
 お湯を張ったバスタブに身を沈める俺と、湯船に入れず洗い場の椅子に座り込む天和。天窓から見える星たちは美しく、ここから丁度三日月も見える。
「水で冷やした方がいいんじゃないか?」
「背中洗ってくれ、炎樽」
 遠慮なく言われて、俺は仕方なく湯船から出た。
 後ろを向いた天和の背中にシャワーの水をかけ、手のひらに落としたボディソープをゆっくりと滑らせる。触れているだけで熱を持っていると分かる天和の背中は筋肉質で広く、男らしかった。

「ああ、気持ちいいわ」
「いらっしゃいませー、的なやつだな」
「いいな。そのまま抱き付いて、体で洗ってくれよ」
「阿呆」
 背中を流し終えてからシャワーを止めると、その手を天和に握られた。
「………」
 そのまま軽く引かれてバランスを崩した腰を絡め取られ、椅子に座った天和の右膝に跨る恰好になってしまう。
 この状況で拒否することはできない。跨った天和の膝も熱いし、そこに触れる俺自身も灼けるように熱い……。
「……ん」
 顔を寄せてきた天和に素直に目を閉じ、唇を重ねる。するとすぐに天和がもう片方の手で俺の背中を支え、より密着する形で俺達は抱き合った。

「は、あ……」
 風呂場だからか小さな声も響いてしまって、恥ずかしさから天和に強くしがみついてしまう。
 こんな風に好きな男と触れ合ってキスができるって、きっと素晴らしいことだ。お互いに「したい」って思うのって、多分そんなに当たり前なことじゃない。
「炎樽。後ろから抱かせろ」
「ん、……」
 風呂場の熱気とお互いの体の熱が混ざり合う中、俺達は早々に息を荒くさせながら立ち上がった。