#7 体育祭バーニング -8-

 一回戦は青組の勝利。二回戦目は僅差で赤組の勝利。両組とも生徒達は完全燃焼している様子だが、誰も床に倒れたり座り込んだりしていない。これから戦う自分達の大将に全てを託し、声をあげて陣の士気を高めている。

 アリーナの右端と左端で、大将の騎馬が組まれた。
「………」
 上に乗った天和と彰良先輩の頭には、大将の証である兜が被せられている。勿論本物でもレプリカでもない軽い素材で、この日のために造られた美術部の力作だ。
 和太鼓の「ドン」という音で、大将を乗せた騎馬が立ち上がる。次の「ドン」で陣地からゆっくりと出陣し、最後の「ドドドド」が鳴る中を両者がアリーナの中央へと移動する。
 緊張した空気。あの一年生でさえ息を飲んでいる。

「赤組大将、三年C組 渋谷彰良!」
 実行委員がマイク越しに叫び、彰良先輩が兜を脱いだ。それを床に投げるのが伝統となっていて、彰良先輩が兜を投げるとようやく黄色い声が拍手と共に響き渡った。
「青組大将、三年E組 鬼堂天和!」
 天和が兜を取り、床に叩き付ける。耳をつんざくほどの歓声。手すりから身を乗り出し過ぎた一年生を、見張っていた教師が慌てて引き戻す。
 ドン、と太鼓が鳴る。天和も彰良先輩も互いの目を見て、――笑っていた。

 法螺貝の音。ぶつかり合う騎馬と騎馬。彰良先輩が体育着ごと天和の肩を掴み、天和が彰良先輩の腕を掴む。お互い、取るべきハチマキには指一本触れさせない。
 観客席から嵐のように放たれる歓声をどこか遠くで聞きながら、俺は茫然と二人を見ていた。

 真剣な顔。飛び散る汗。鬼気迫る目付きと、歯を食いしばった口元。始めは天和の勝ちだと余裕の笑みを浮かべていた青組の三年生も、彰良先輩の迫力と力強さに口をぽかんと開けている。
「天和!」「頑張れ、天和!」
「彰良先輩!」「行け、彰良!」
 男同士の、力と力の戦い。これがあの優しい彰良先輩なのか。これが俺に悪戯ばかりしていた天和なのか。
「………!」
 心臓の高鳴りが止まらなくて、俺は熱くなった胸に手をあてた――。

 激闘の末、騎馬戦は青組の勝利となった。一度は天和のハチマキを掴んだ彰良先輩だが、それを奪うよりも早く天和の手が彰良先輩のハチマキを取ったのだ。身を乗り出した天和の騎馬が崩れ、彰良先輩たちがそれに押される形で騎馬ごと後ろに倒れる。体育教師が彰良先輩の体を後ろから支え、別の教師が両者の間に割り込む形で天和を止めた。

 ほんの一瞬差での決着だった。天和は騎馬に担がれたままアリーナから拳をあげ、彰良先輩は悔しそうに額の汗を拭っている。

 俺は込み上げてくる感情を必死に抑え、二人に心からの拍手を送った。