亜利馬、デビューに感動 -5-

 結局俺の次の企画は「秘密~僕と恥ずかしいことシよ?(仮)」というタイトルからしてこっ恥ずかしいものになった。
 会議室へ戻る廊下を山野さんと歩きながら、胸の裡にある不安を言葉にして訊いてみる。
「あの、さっき言ってた潮吹きとか放尿とかって、今後やる可能性あるんですか」
「やれるなら何でもやる。そんなに大したことじゃない」
「で、でもその……お、おしっことか、汚くないですか」
「出すだけなら大丈夫だろう。それに、飲む場合は──」
「のっ、飲む? 嘘ですよね、そんなの!」
 衝撃的すぎて立ち止まってしまった俺を、山野さんが呆れたような顔で振り返った。
「その場合は、見てる側には分からないように代用品を使う。茶を薄めたものとかな。言っておくが、精液を含め排泄物を飲むようなことは絶対にさせない。全部代用品だ」
「そ、そうなんですか……」
「AVというだけで病気のリスクだ何だと言われるが、ある意味では一番安全なセックスをさせている。知識不足のカップルが興味本位で行なうセックスの方が、ずっと病気のリスクは高い。ここでは月に一度の性病検査もあるしな」

 山野さんは眼鏡のブリッジを指で持ち上げ、少しだけ寂しそうな目をしていた。
「AVというだけで男も女も淫乱だと思われたり、白い目で見られることもある。どんな仕事をしていようと、本人の頑張りを馬鹿にしたり、笑う権利など誰にもないはずなのにな。俺はお前達を使って仕事をするが、その代わりに引退まで全力でお前達を守る。それが俺の義務だ」
「山野さん……」
 冷静沈着な山野さんが意外にも熱く語るものだから、何だか俺も力をもらえたような気がして……胸が熱くなった。
 恥ずかしいことをするけど、恥ずかしいことじゃない。それを見てくれる人、喜んでくれる人がいるなら、むしろ胸を張ってやるべきことなんだ。
「……まあ、放尿は俺にはまだちょっと心の準備が必要ですけど」
「ん?」

 夕方からのインタビューはブレイズのリーダーである獅琉が殆ど喋ってくれて、ついでにデビューしたての新人として俺も幾つか喋ることとなった。予め内容をもらっているから言葉に詰まることはない。それでも大雅なんかは「……分かんない」とか言うことも多くてインタビュアーさんを少し困らせてしまった場面もあった。
 今回はメーカーが独自で行なった身内のインタビューみたいなものだったけれど、今後は風俗雑誌やゲイ雑誌、更にはボーイズラブ雑誌などからも仕事がくる場合もあるらしい。緊張するけど楽しそうだ。仕事はセックスだけじゃない。
「竜介や他のモデルとの打ち合わせが終わったらすぐに撮影開始だ。亜利馬、それまで風邪だけはひくなよ」
「はいっ!」
 最後に山野さんからそう言われて、俺は敬礼ポーズでそれに答えた。

 外はすっかり暗くなっている。それでもだいぶ気温は温かくなってきて、そろそろ上着も必要なさそうだ。
「それじゃ、竜介んちに出発!」
 竜介の八人乗りの車に乗り込み、夜の街を走る。たまに車で出勤しているという竜介が、今日も運よく車で来ていたのだ。助手席に座った大雅が「お腹すいた」と呟き、俺達は六本木へ向かう前に適当なマーケットで買い出しをすることにした。

「押してやるからカートに乗れ、亜利馬!」
「だ、駄目です潤歩さん! 迷惑行為です!」
「広い店だね。珍しいのもいっぱい売ってるし、今度俺も来ようっと」
「……竜介。これとこれも」
「いいけど、そんなに食い切れるのか? 腹壊しても知らんぞ」
 五人であれこれ言いながらカートに食料品を積んで行く。
 楽しかった。こんなの、地元にいたままじゃとても経験できなかった。気の置けない仲間達と、こんな時間に一緒に楽しめるなんて。しかもこの後はプールではしゃぐのだ。
「楽しそうだね、亜利馬」
「獅琉さんもね!」