#5 エロス&インテリジェンス -13-

 俺は唇を噛みしめ、潤んだ目で天和を見つめた。
 ポーズ画面を解除し、天和がゲームを再開させる。画面上のボタンを押してジャンプや攻撃方法を確かめ、その場で操作方法を覚えているらしい。
「だ、大丈夫か……?」
「いける」
 ゲーム自体はそれほど難易度の高いものではない。横スクロールのアクションに謎解き要素もないし、ただ敵を攻撃して倒しながら地形に沿って進んで行くだけだ。
 シャックスがいる門まで後少し。マカロが進めてくれたお陰でここまで来たが、ゲーム初心者の天和にいきなりラスボス討伐なんて出来るのだろうか。

「き、きた! ラスボスの門!」
「………!」
 俺が叫んだと同時に、突然ゲーム画面が激しく揺れ始めた。ノイズがかかり砂嵐のような画面になり、中央にじわじわとアルファベットの文字が現れ始める。

 ──Welcome to My Hell.

「これって……」
 どこかで見た覚えのある文字だ。絶対に見たことがあるのに、何故か思い出せない。思い出せないのに、目が離せない──。

「あっ、……!」
 気付けば画面の中にいたはずのシャックスの巨大なグラフィックが、ドット絵の形そのまま俺の目の前に立っていた。青みがかった肌に、執事のようなスーツに、背中には大きな鳥の羽が生えている。
「人間風情がここまでやって来るとは、どうやらお前の力を見くびっていたようだ」
 低い声でラスボスとしての台詞を言うシャックス。彼のグラフィックが消えたスマホ画面にはウィンドウだけが表示され、今目の前のソレが発した台詞がそのまま表示されている。
「覚悟しろ!」
 そして何の説明もなくバトルが始まった。俺も天和もぽかんと口を開けたままだ。
 シャックスが右手をこちらに向けた瞬間、その指先から2Dグラフィックそのままのレーザーっぽい光が放たれた。

「え、ちょっと……何? 天和、……逃げろっ!」
 取り敢えずゲームと同じであれに当たったら駄目だと直感し、中腰のまま慌てる俺。頭では分かっているのに突然過ぎて対処できず、体が思考に付いていかない。
「炎樽っ!」
 天和が動けない俺にタックルをする形で間一髪、レーザーを避けることができた。見れば屋上の地面も何となくドット絵を拡大したような地形になっていて、空に浮かぶ雲も、フェンスの網も、遠くの家々も角ばっているように見える。

「大丈夫か炎樽」
「お、俺達ゲームの中に入ってる? いや違う、……現実がゲーム化してるのか?」
 頭の中がこんがらがって収拾がつかない。マカロに聞こうにも全魔力消耗でぐっすり寝ているし、保健室へ逃げている余裕もなさそうだ。
「考える時間はねえ。とにかくあいつを倒せばいいんだろ」
「で、でもそんな簡単に……」
「ここがゲームの中にしろ、現実がゲームになったにしろ、プレイヤーも同じレベルになってるはずだ。倒せねえ敵じゃねえ」
 確かに俺をレーザーから救ってくれた天和のパワーとスピード、反射神経は人間離れしていたような気もする。

 もしも天和が、ゲームのプレイヤーと同じレベルやステータスになっているのだとしたら……
「も、もしかして必殺技も出るっ? 出してみてよ、天和!」
「……お前、何か楽しそうだな」
 普段から喧嘩慣れしている天和が更にゲーム内の力を手に入れたなら、きっと怖いものなしだ。
「気を付けろよ、天和!」
 天和が学ランの袖を捲る動作をして、巨大ボス・シャックスに向き合った。