#5 エロス&インテリジェンス -4-

 昨日とは打って変わって視界が開け、すらすらと黒板の文字をノートに写すことができる。
 余裕が出てきて前の方の生徒の手元に目を向けると、授業を無視して読んでいる漫画の内容すらはっきりと見えた。
 すごい。一番前の席に座っている奴が開いた教科書が何ページなのかまで見える。スマホを弄っている奴が何のゲームをしてるのかも分かるし、教師が黒板にチョークを滑らせた時に飛ぶ粉も見える。
 ──さすが、夢魔印の赤縁眼鏡。

 視力が強力になったというだけで、こんなに世界が違って見えるなんて。退屈な数学も別の意味で何だか楽しくて、俺にしては珍しく一、二、三時限目と一睡もすることなく真面目にノートを取ることができた。
 だけどやっぱり本来の勉強嫌いな性格が災いしてか、四時限目が始まった頃には既にもうこの視力に慣れてしまい、何か面白いものはないかと黒板よりも周りに意識を向けていた。

「………」
 頬杖をついたその時。

「ん、……?」
 指先に眼鏡のテンプルが触れ、そこに何か小さな凹凸があるのに気付いた。始めはストーンか何かがデザインとして付いているのかと思ったが、違うらしい。かなり小さいが押せるようになっていて、ポチリと人差し指でそれを押してみる。
「……んんっ?」
「……このように、角膜上皮というものは涙に覆われており──」
 理科の講師の声が響く教室。
 真面目な生徒もいれば不真面目な生徒もいる中で、俺の視界に映る人達の着ている服が突然溶け始めた。

「え、……えぇ……?」
 教室中の生徒の学ランが消え、中のシャツが解け、ズボンがじわじわと消えて行き、下着が透けて行く。
「うわっ、わあぁっ?」
「比良坂! うるさいぞ、真面目にやれ!」
「せ、せんせ……」
 教壇前から俺を睨む講師のスーツもいつの間にか消え去り、素っ裸のおじさんが仁王立ちしている姿となる。
「んぐっ、……」
 危うくこみ上げてきたものを吐き出しそうになってしまい、俺は机に顔を伏せた。

「大丈夫か、炎樽?」
「幸之助……って、うわあぁっ」
 隣の席の幸之助も全裸だ。全裸で不安そうに俺を見ている。
 何だ何だと俺に視線が集まる。全員漏れなく全裸で、ただ一人服を着ている俺に注目している──。
 全裸の理由がこの眼鏡にあると気付いた俺は、慌てて顔からそれを外して机に置いた。みるみるうちに視界がぼやけてきたが、眼鏡を外した途端に学ランの色が戻ってきたということは……やはり原因はこいつだ。

 ──サバラの奴!
 とんでもない物を寄越してきやがった。「天和の要望も賄える」って言っていたのは、こういうことか。