#5 エロス&インテリジェンス

「うーん……」
「どうしたほたる? おれのこと睨んでる?」
「あ、ごめんごめん。別にマカを睨んでた訳じゃないんだけど」
 サバラが帳が丘学園の保健室の先生となり、約一週間後。時給千円で保健室内に「フェロモン漏れ防止」の結界を張ってもらい、昼飯を食べていた昼休みのことだった。

「何か最近、目が悪くなった気がするんだよな。それとも昨日ゲームし過ぎて目が疲れてるだけかな……」
「ほたる、夜の二時までゲームしてた」
「そんな時間までゲームなんて、絶対目に良くないって分かるでしょ。何やってるんだ炎樽くん」
 白衣姿で呆れたように腰に手を当て、サバラが言った。
「夜更かしは肌にも良くないし、睡眠不足にもなるし、体調も崩れやすくなる。健全な精子が育たなくなるんだぞ」
「結局それかよ」
 椅子に座っていた天和が、机の上に広げたおにぎりに手を伸ばして皮肉っぽく笑う。

「たかとも、おれもおにぎり」
「ほらよ。鮭」
 俺が家で作ってきた大きめのおにぎりをマカロと一緒に頬張りながら、天和は行儀悪く座った椅子の隙間に曲げた片足を乗せていた。その隣の椅子に座って、マカロは大人しく頬を膨らませておにぎりを味わっている。マカロが子供の姿なのは、今朝学校に着いてから俺の知らない所でサバラと何かの勝負をして負けたためらしい。
「たかとも、次おかか」
「ほらよ」

 俺はそんな二人を眺めながら、眉間に皺を寄せて少しだけ顔を近付けた。
「うーん、やっぱりいつもより目が霞んでる気がする……」
 道理で今日は黒板を写すのも苦労した訳だ。元々の視力が良い方だけに、少し見にくくなっただけで何だか凄く損をした気分になる。
「たかともは、目良いのか?」
「良いぞ。ゲームも漫画も興味ないしな」

 聞いていたサバラが「ふうん」と感心したように腕を組んで言った。
「ネットが普及してから人間の視力は下がってきてると聞いたが、ここに原始人がいたとは」
「スマホもあんまり触らねえし。本も読まねえ」
「たかとも、休みの日って何して過ごしてるの?」
「バイトか寝てるか買い物だな」
「つまらなそう……一人ぼっちだから?」
「うるせえな、このチビ」
「ぎゃっ」
 天和にゲンコツを落とされ、頭を抱えて目に涙を溜めているマカロ。天和の無趣味事情は置いておくとしても、このままだと五、六時限目も苦労しそうだ。

「困ったな。ゲームの続きもやりたいし……夜くらいしか時間ないからなぁ」
「眼鏡を作ればいいじゃねえか」
 言いながら、天和が俺の顔をじっと見つめる。
「……ああ、眼鏡があっても良いかもしれねえな」
「何目線での『良い』なのか分かんないんだけどっ?」
「黒か赤の縁で、なるべくエロいやつにしろ」
「エロい眼鏡なんかねえし!」

 そのやり取りを見ていたサバラが、両手を叩いて「そうだ」と声をあげた。それから色っぽく髪をかき上げて、スマホのような物を取り出して何やら操作している。
「……これでよし。炎樽くん、明日の朝、授業が始まる前にここにおいで。僕が夢魔印の便利なグッズをプレゼントするよ」
「便利な物?」
 自信満々で頷き、親指を立てるサバラ。
「これがあれば、君の視力も天和の要望も賄えるだろう」
「天和の要望はいらないけど、視力がどうにかなるなら楽しみかも! ありがとう、サバラ先生!」

「……サバラ、何買ったの?」
 はしゃぐ俺とは裏腹に、マカロだけが不安げな顔でサバラを見上げていた。