#4 ナイトメア・トラップ -11-

 一夜明けて火曜日。

「……重い。暑い……」
 いつもよりもずっと寝苦しくて思わず目を覚ますと、俺の体に二匹の夢魔と一匹の鬼が群がっていびきをかいていた。
「何でいつも俺にくっついて寝るんだよ……!」
 サバラが俺の右脇の下に顔を突っ込んで抱き枕のように俺を抱きしめ、天和が俺の頭を胸に抱いてやはり脚を俺の体に巻き付かせ、マカロが絡み合った二人の脚の下をくぐるようにして俺の股間に顔を埋めている。
「お前ら、起きろっ!」
 三人がかりで押さえつけられては身動きも取れず、しかも全員起きる気配がない。
 マカロがサバラとの再会と仲直りを機に色々飲んだり話したいと言うから、仕方なくサバラを家に泊まらせてやったのが間違いだった。
 サバラを俺の家に一晩置かせるなら守り役をやる、と名乗り出た天和も当然泊まることになり、酔っ払った二匹の夢魔がリビングのソファで寝入ったところで俺も二階にある自分の部屋のベッドに潜り、……起きたらこの有様である。

「ん……炎樽。おはよう……」
「マカ、何で下のソファで寝てたのに二階に来てるんだよ」
「夜中に目が覚めて、ふらふらって、サバラと一緒に匂いを辿って……」
 まだ酔いが残っているのか、その言葉を最後にマカロが再び俺の股間に顔を伏せた。
「………」
 時刻は早朝、六時。まだ起きる時間までに余裕はあるけれど、この圧迫による息苦しさだけは何とか解消しておきたい。無理矢理に体をよじって少しずつ三人から逃げるにつれ、俺の体を抱き枕代わりにしている男達の腕やら脚やらがずるずると離れて行った。
「……迷惑なアラームだな」
 ようやくベッドを降りた時にはすっかり目が覚めていて、俺はふらつきながら階段を下り洗面所へと入って行った。

「………」
 起きて支度をして、学校へ行って。変わらない毎日のはずなのに、何故か俺の周りだけ目まぐるしく色々なことが変わってきている。
これまでの日常が一変したのはマカロが現れてからだけど、それよりも一か月前、……俺がフェロモンによる「匂い」を持つようになった時には既に、この運命が決まっていたのかもしれない。
 俺の匂いがマカロをここへ導いたのだとしたら、そもそもの俺の匂いは何処からやって来たのだろう? 一年の頃は全くそんな気配なかったのに、どうして二年になって突然開花したんだろう。
「うー……」
 考えても何も思い付かず、俺は仕方なく顔に冷水を浴びせた。

「炎樽、腹減った」
 俺の匂いを辿って洗面所に入ってきたマカロが、目を擦りながら甘えた声を出す。通常時の大きさは俺よりずっと背が高いのに、中身はまだまだ何も出来ない子供だ。
「おにぎり作るから、海苔と中の具を用意しといてくれよ。たしか鮭のフレークがまだあったはずだから、それも使っちゃおう」
「サバラ、おにぎり食べたら絶対驚くぞ。あんなに美味いの滅多にねえもん」
 悪巧みのような顔で笑いつつも嬉しそうなマカロに、俺はふと疑問に思ったことを訊ねてみた。
「マカって、サバラのことビビって怖がってたんだろ。いつの間にそんな仲良くなったんだ?」
「べ、別にビビってない! サバラが俺に意地悪ばっかりするから警戒してただけだ!」