#4 ナイトメア・トラップ -10-

 目を丸くさせた天和とは反対に、俺は極限まで顔を赤くさせて肩の手を振り払った。
 何だ最強の種って。全く意味が分からない。
「炎樽うぅ。俺、素直になれって言っただろ?」
「何が!」
 意味ありげにニタニタと笑いながら、マカロが俺の頬をつついて更に言う。
「ちゃんと聞こえてたぜ、あの言葉」
「だ、だから何がっ? 何の話だよ!」
「それは自分で思い出さないとなぁ。まあ、俺の読みだと最強の種をゲットできる日もそう遠くないってことだ。……俺はその日まで、ちゃんと炎樽を他の男達の魔の手から守るよ」
「俺はそんなコイツをからかったり、詰襟の美少年で目の保養をしたり、紅茶を飲んだりしながらしばらくは適当に過ごす。風俗に行けば取り敢えずの種は手に入るしな」
 ……こんな人が学校で先生をやるなんて、今すぐ教育委員会に訴えたい気分だ。

 それに、とサバラが天和を睨みながら続ける。
「こいつには幾つかの借りがあるからな。どうにかしてお前だけは叩きのめす」
「ああ?」
「デカさだけが男の全てだと思うなよ」
 何を言っているのかよく分からないが、それは天和も同じのようだ。変な物を見る目でサバラを見つめるものだから、余計にサバラの機嫌が悪くなる。
「か、勝ったと思うなよ!」
「勝ってる要素しかねえけどな」
「何だと!」

 憤るサバラを羽交い絞めにしたマカロが、壁の時計に目をやってから言った。
「そろそろ授業も終わるだろ。昼休みになるから、炎樽を匿わないと」
 結局、三時限目の授業は保健室でのサボりとなってしまったようだ。英語の教科書とノートも持ったままだし、天和と鉢合わせしてから俺が戻って来なかったという状態だから、幸之助も心配していることだろう。
「それじゃあ飯持ってくるから、炎樽はここで待ってろよ。俺が戻るまで炎樽を守っとけよ、マカ」
「了解!」
「守るって何からだ! おい、お前!」
 サバラを無視して保健室を出て行く天和の後ろ姿に、俺はある種の既視感を覚えた。
 何だっけ、この後ろ姿……何となく頼れる感じで、……

「そうだ」
 体育倉庫で三年連中から俺を守ってくれた時の天和。それだ。
 だけど何だろう、つい最近も天和に助けてもらったような気がする。思い出せないけれど……どうにもならない状況で突然天和が現れて、俺を守ってくれたような……。

「………」
 そしてそんな天和に、俺は……
「炎樽、顔赤いぞ。熱か?」
「体温計ならあるが」
「だ、大丈夫」
 そんな天和に俺は、何か物凄く大事なことを言ったような。

 そんな気がする。