#4 ナイトメア・トラップ -2-

 やっぱり、人間の魅力って「顔」なのだろうか。保健室で授業をサボる生徒は以前から割といるけれど、ただの中休みでこんなに繁盛しているのを見るのは初めてだ。
「さあ、本当に具合の悪い子だけ残って、他の皆は教室へ戻りなさい。また次の休み時間に会いに来てくれたら嬉しいな」
 甘い顔立ちでさらっと言えば、群がっていた生徒達の目が瞬時にしてハートマークになる。よく見ればうちのクラスの生徒もいた。こういうのに騒ぐ生徒は一年生のお坊ちゃま達だけかと思っていたから、何だか色々驚きだ。

「……ん?」
 砂原先生がこちらを見て、ふいに目が合った。柔らかな笑顔が俺に向けられ、思わず少しだけ胸が高鳴る。彰良先輩を始め、つくづく俺はこういう「優し気な男」に弱いのだと思い知らされた気分だった。
「どうしたのかな、ぼんやりしてるよ」
 教室に戻るため保健室を出る生徒達と一緒に、砂原先生も廊下へ出てきて俺に声をかけてくれた。
 間近で見ると物凄く睫毛が長いのが分かる。唇も綺麗で、肌も陶器みたいだ。壇上で挨拶をしていた時と同じグレーのスーツに上から白衣を羽織っていて、どことなく全体から良い匂いがする。
「具合が悪いなら、休んで行くかい?」
 優しい声。優しい笑顔。俺は心なしか熱くなった顔を横に振り、「大丈夫です」とかろうじて声を振り絞った。

「本当に? 何だか凄く疲れた顔だし、何か悩みがあるんじゃないかな」
「先生。彼は上級生に大人気で、昼休みの度に追いかけ回されてるんですよ」
 背後から声がして振り向くと、幸之助が頭の後ろで手を組み笑っていた。
「こ、幸之助! 余計なこと言うなって……!」
「おや、それは大変だ。人気者なんだね。追いかけられて困った時は、いつでも保健室に逃げておいで」
「は、はぁ……ありがとうございます」

 砂原先生がニコリと笑って、それから、少しだけ身を屈めて俺に囁いた。
「こんなにいい匂いさせてる君を、オスが放って置かないのは頷けるけどね」
「え、……?」
 よく聞き取れなかったけど、何だか恥ずかしいことを言われたような気がする。見上げた砂原先生は変わらず優しい笑顔で、「じゃあ、またね」と手を振っていた。
「………」
 先生が中へ戻って行き、保健室のドアが閉まる。
 目の前には「Welcome to My room」というホームセンターで売っていそうな洒落たプレートがかかっていた。