#3 秘密の土曜日

 生きていれば普通にしてても面倒なことが山ほどあるのに、学生という縛りの中ではそれと対面する機会が極端に多くなる。
 なるべく面倒なことを避けるように過ごしているつもりだが、どんなに自分がじっとしていても大抵の場合、面倒事は向こうからやってくるのだ。
 喧嘩もセックスも無くたって、学生生活は楽しめる。むしろそんなものと無縁に生きていた方が、きっともっと自由に生きることができたはずだ。

「あっ、あぁ……天和先輩、……!」
「………」
 こんなことを繰り返していたって、一時の満足感は得られても心の中は乾き切ったままだ。ベッドがぶっ壊れるほど腰を振っていても、気持ちがそこに無ければ幸福も高揚も、何もない。
 男を悦ばせる声の出し方と表情、体の動き。今俺の下で喘いでいるのは今日初めて存在を知った下級生だ。帰る場所がないというから泊めてやることになり、寝ていた俺の上に自分から跨ってきた。こうなると俺も知っていたから、流れに従って体を合わせた。

 どうせ本気じゃない。俺も、こいつも。ただの暇潰しで満たされない何かを少しでも埋めることができるなら、別に相手が誰でもどうでもいいと思っている者同士。
 案の定そいつは事が終わった後でわざとらしくスマホを取り出し、「兄貴帰ってきたみたい。ありがとう先輩、またね」と俺の部屋を出て行った。汗も乾き切らないうちに。

 誘えば気持ち良いことをしてくれる先輩。怖いけどセックスだけは凄い。浮気とセフレに丁度いい。──そんな風に言われているのも知っている。どうでもいいから、放置しているだけだ。
 多くのことがどうでも良くて、今更何かをやろうという気も沸かない。そんな奴の人生なんて、なるようにしかならないと分かっている。
 だけど、……

 ──ほら、いたよ。ウサギ見つかった!

「………」
 誰も世話をしないものだから、夏休みの間だけ飼育小屋のウサギを自分の家へ連れて帰った、小学生時代のあの日。ケージから逃げたウサギ達の最後の一羽が見つからなくて、半べそで近くの空き地を探していた俺に、そう声をかけてくれたのはあいつだった。
 夕焼けを背景に白いウサギを抱え得意げに笑っていたあの顔が、今も頭から離れない。
 ──ウサギって可愛いよね。お兄ちゃん、また今度見せてね!
 名前は何ていうのか、多分俺は訊ねたのだろう。
 ──俺? 俺の名前は、……

「……ほたる」

 声に出して呼んだと同時に目が覚めた。
「……あ、……?」
 当然、記憶の中で喘いでいた下級生の温もりはベッドに残っていない。これまで関係を持ってきたセフレを切ると決めてから、もう十日は誰ともセックスしていないのだ。だからあんな夢を見たというのか。……夢精していないだけ、ましだが。