#1 DKとインキュバス -5-

「………」
「声も出ないか。無理はない、人前に姿を現したのはこれが初めてだからな」
「……いや、そういうの要らないんだけど。取り敢えず出てってくれる? 警察呼ぶぞ」
 頭が痛くなってきて、俺は額に手を置きながら続けた。
「インキュバスとか王子とか、俺もう高二だから……そういうの憧れる齢でもないし。手品やるならもっと喜んでくれそうな子供の所に行きなよ」
「手品ではない!」
「ていうか」
 立ち上がり、伸ばした手で男の細い尻尾のようなソレを掴む。
「痛てぇっ!」
 それから自分の出せる限りの威圧的な低い声で、男に言った。
「ニセモンでも母親にあんな真似されると気色悪いし心臓止まるんだわ。もう少しましなやり方なかったのかよ? おい、どうしてくれんだこの野郎」
「ち、……違げぇって。お前に一番近い女っていったら、それしか思い付かなくて……」
「はぁ?」
「あ、う……」

 俺に睨まれた男が口をパクパクさせながら両手を組み合わせている。悪魔っぽい見た目に反して意外と気は弱いらしく、その赤い目はうるうると揺らいでいた。
「ぶっ飛ばすぞ、コラ!」
「ひっ……!」
 握った手の中、尻尾らしきソレがするりと抜けて行く。見ればさっきまで俺よりデカい体の男だったのが、今は幼稚園児くらいの小さな子供の姿になっていた。
「え? あ、あれ……?」
「ぶ、ぶたないで! ごめんなさい、ぶたないで!」

 ピンクの髪に白い肌。体がそのまま小さくなったためか、Tシャツがゆるゆるのワンピースのようになっている子供……。
 それは、確かに目の前で起きた現実だった。

「お、お前」
「あああ、ぶたないで……」
 この男、まさか本当に……?
「………」
 無言で尻尾を引っ張ると、「痛い痛い!」とそいつが喚いた。両翼を摘まんで引っ張っても「痛い痛い!」だ。ワンピースと化したシャツを捲ると下には何も穿いておらず、しっかりと子供のソレが付いている。

「お前、本当にその……人間じゃないってのかよ?」
「う、うん。おれ、人間じゃない。まだ生まれたばかりなんだけど、他の兄弟と比べて仕事ができない落ちこぼれだからって、お父さんから無理矢理『しゅぎょう』に出されたんだ」

 うるうるの大きな目で見つめられると、強く物が言えなくなる。俺は溜息をついて床に座り、そいつと目線を合わせて言った。
「名前、何だって?」
「……マカロ」
「何でここに来た?」
「……すごい匂いがしたから」