竜介、大忙し -4-

 山野さんからは「別にいいが、何の勉強だ」と言われてしまったけれど、俺は竜介にお願いして「勉強」と称し、今日の撮影現場を見せてもらうことになった。
 タチ専で四年間活動してきた竜介の現場の顔というものが見てみたかったし、俺も今のところはウケ専で売り出す予定だ。タチウケの立場は違うけれど、「それだけ」に徹しているモデルの仕事について知りたいという思いもあった。
「見ててもいいが、鼻血の出しすぎで倒れるなよ」
 山野さんが予め俺にティッシュの箱を渡してくれた。
「だ、大丈夫……だと思います。ちゃんと『見るぞ!』って気持ちで来ましたから」
 場所は昨日俺も撮影で使用したスタジオの三階。セットは始めからSMっぽい造りになっていて、実際に使う十字型の拘束台やオブジェとしての三角木馬とか、鞭とか手錠とかが飾られていた。壁は真っ赤で、ベッドは真っ黒。いかにもって感じのセットだった。
「はあぁ、凄いなぁ……。あの、山野さん。……まさか鞭で叩いたりはしないですよね?」
「そういう撮影もあるが、今回は『凌辱』がメインだからな」

「カズトくん、入られまーす」
 少しして相手役のモデルが現場に入ってきた。カズトという名の二十歳の青年は俺よりだいぶ大人っぽい見た目だけれど、慣れているのか気さくにスタッフの人と話している。そこへ竜介が行くと、青年が「おはようございます!」と深く頭を下げた。
 笑顔で竜介と話しているカズト。とてもじゃないが、大雅には見せられない現場だと思った。

「それじゃあ、カズトは位置についてくれ」
 それから定時きっかりに撮影が始まり、俺は物音を立てないよう静かにパイプ椅子に腰を下ろした。
 カズトは十字の拘束台に磔にされている。さっきまで皆に見せていた笑顔は消え、苦しそうな表情でカメラを見ている。彼の足先から頭まで全身を撮ってから、俺の時もお世話になったゴーグルマンの三人(今日はサングラスにスーツ姿だ)が入ってきて、カズトの体をいたぶり始めた。
「ん、んん……」
 必死でそれに耐えるカズト。衣装は始めからワイシャツに下着だけというもので、剥き出しの太腿をさわさわと撫でられるたびに体を捩っている。俺だったらくすぐったくて笑ってしまうであろうシーンだ。カズトはちゃんと苦しそうに、恥ずかしそうに、顔を顰めている。
 ボタンは外さずにシャツが捲られ、露出した両方の乳首をゴーグルマンが舐め始めた。残る一人はカズトの足元で片膝をつき、下着の上から股間をさわさわしている。
「は、あぁっ、……あ」
 ──竜介はいつ出てくるんだろう。このままだと竜介とは関係のないシーンで鼻血が出てしまいそうだ。

 たっぷり五分くらいカズトが愛撫を受けたところで、ようやく竜介が「部屋」に入ってきた。
「いいザマだな。俺に楯突いたらどうなるか、お前の体に叩き込んでやるよ」
 ……ああ、普段の竜介からはとても考えられない台詞。今日の竜介は髪がオールバックでダブルのスーツ姿という、映画でよく見るマフィアの首領のような格好をしていた。
 ゴーグルマンの三人が竜介のために場所を空け、カメラからは分からないように画面外へとはけて行く。拘束台のカズトと向かい合った竜介が、カズトの顎をグッと押さえて思い切り口付けた。愛情なんて微塵も感じられない荒々しいキスだ。それ自体も凄いけど、苦しそうに本気で顔を振るカズトをちゃんと片手で押さえ込んでいる竜介もすごい。

 糸を引きながら舌が抜かれて、カズトの唇から顎を唾液が垂れる。俺は俺で鼻血を垂らさないよう、目の前の光景を見つめながらも脳内で己と闘っていた。